2014年12月18日(木)
少なくとも沖縄の選挙結果は、はっきりしている。このうえもなくはっきりしている。これをしも無視・黙殺するとしたら、「本土」と沖縄の間にはもはや何のコミュニケーションも存在しないことになる。
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射程距離、それが常に問題だった。飛行機という飛び道具の射程という意味で、航続距離も等価である。昭和19年にサイパン島の守備隊が全滅したことは、わが家(母の家)の痛恨事だったが、同時にすべての日本人にとって忌まわしい予兆でもあった。
ヨーロッパ戦線で「空の要塞」と呼ばれ、ドレスデンをはじめドイツの主要都市を焼き尽くした爆撃機B17は、航続距離に延伸を加えてB29に進化を遂げていた。サイパン島を米軍が制圧することによって、日本全土がその航続距離内、つまり射程内に入ったのである。その後のすべては余話に過ぎない。
日本を傘下に収めた米軍の、次なる不沈空母が沖縄だった。さらに怪物的な変身を遂げたB52が、嘉手納から飛び立っては、北爆 ~ 北ベトナムへの爆撃を繰り返した。沖縄を中心とする円形の射程圏が、アジアの東半分を覆ったのである。米軍が空軍力の優位を保つ限りこの関係は一方的なもので、「向こう側」からは沖縄は近くも遠い射程外にあった。
この非対称性が崩れたのはいつだったか、寡聞にして僕は知らないが、今それがすっかり崩れていることを、8日の朝刊でジョセフ・ナイ元米国防次官補が明瞭に語っている。沖縄は既に中国の弾道ミサイルの射程内に入っており、ここに米軍基地を集中することはリスキーだというのである。
「卵を一つのかごに入れれば、(すべてが一度に割れる)リスクが増す。」
この問題を解決する上で、普天間飛行場の辺野古移設は短期的にはともかく、長期的には解決にならないと指摘が続く。理屈から言って当然そうなるが、下の句に思わず苦笑した。
「沖縄の人々が辺野古への移設を支持するなら私も支持するが、支持しないなら我々は再考しなければならない。」
日本ではない、アメリカの軍事専門家のコメントである。
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今18日(木)の朝刊は、米とキューバの国交回復のこと。とりあえず結構なことだ。
1959年にカストロらが親米バチスタ政権を倒し、その後、米企業の資産を接収したことなどがきっかけで61年に国交断絶(つい最近、イランについてよく似た経緯を振り返ったな)、CIAによる侵攻計画からケネディ就任後のキューバ危機へ、そこでのひとつのテーマが、やはり「射程」だった。
キューバにソ連のミサイル基地が置かれれば、米全土がその射程内に入ることになる。当然アメリカは強く反発するが、ソ連からみればトルコに置かれたアメリカのミサイル基地は、ソ連に対してまったく同じ意味をもつものであって云々・・・
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個々の人間がもつ影響力の射程とか、碁における厚みの問題とか、いろいろ連想される。後者はまさに戦略的な「射程」の問題で、堅固な厚みは盤の対角にまで影響を及ぼすのだが、僕のようなヘボはしばしばそれに気づかない。まことに「本当に大切なものは目に見えない。」(星の王子様)
見まいとしても見ずにはすまない、悲鳴とか絶叫とかに近い主張が沖縄から発信されている。これを無視し続けるなら、いずれ沖縄は僕らの信頼の射程外に去ることだろう。
小豆島のMさんから、サザンカの写真が送られてきた。以前にも書いたが、いい花だ。Mさんにはそれが見えている。