散日拾遺

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黄水仙

2021-02-13 17:49:27 | 日記
2021年2月13日(土)
 以前、別のところでしばらく診ていた若い女性から連絡があり、また通いたいという。半休とってやってきた彼女は、顔を合わせるなり堰が切れたように泣き出した。備え付けのティッシュを箱ごと手渡すと、膝の上に置いて一枚取って涙を拭いては鼻をかみ、また取っては鼻をかむこと限りもなく、しかも紙くずを捨てるたびに持参の小瓶のアルコールで指先を拭いている。何をやってるのかと訊けば、
 「鼻をかんだ指がティッシュボックスを汚しちゃいけないから」
 自分が汚れるのではなく、周りを汚すことを心配しているのである。この二年というもの彼女が何を恐れて生きてきたか、痛いように伝わった。しばらく通うの?そうしたいんですけど。毎週仕事を休めないよね?月一ぐらい。理由を訊かれない?病院行くといったら、何の病気か訊かれました。うるさいって言ってやりなよ。そうもいかないんで、
 「フニンショウ治療、って言っときました」
 「え?だって君まだ・・・」
 「よくあるじゃないですか」
 「よくあるったって、ここ婦人科じゃないからさ」
 「婦人科?フミンショウで?」
 言い間違いか聞き間違いか、泣き顔が笑い崩れた。

***

 これはまた別の人からどこで目にとまったものか、庭の黄色い水仙の写真を御所望あり。昨年の正月に撮ったものを送るとすぐに感謝が返ってきた。

 「佇まいの可愛さに心が躍ったのはもちろんのこと、他にも理由がございます。「黄色の水仙」を手許に、「南瓜」の煮物を作る行為が、本当に好きなのです。そこには「水仙の黄色」と「南瓜の配色」を照応させる行為がございます。
 あれこれと探して見比べてましたけれど、お庭にあるお花のお色が濃くて、好きでしたのでとっても嬉しく・・・」

 黄色といってもレンギョウ、ヤマブキ、フリージアからビヨウヤナギまで、全て微妙に違うのはさすがに心得ている。しかし同じ黄水仙の間であれこれ探して見比べる繊細は、既に神仙の趣に属するもののようだ。


 仕事に飽いて中学校のグラウンドを眺めると鳥が一対、これはムクドリだろうか。写真の腕は少しもあがらず、大わらわでやっとこの一枚撮るのを尻目に、春めいた空へおっとり飛び立っていった。


Ω