散日拾遺

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戦場の真実

2022-03-04 07:18:39 | 日記
2022年3月4日(金)
 
 ウクライナで戦死したロシア兵がスマートフォンに残したというやりとりが、国連総会で紹介された。どうして返事をくれないの、本当に訓練中なの、という母親の問いに兵士が返信している。
 「ママ、訓練じゃないんだ。本当の戦争が起きている、怖いよ」
 「ぼくたちは町中を爆撃している。民間人まで標的にしている。歓迎されると聞かされていたのに」
 ウクライナの大使が読み上げたこの内容が本当なら、戦場の真実を最もよく伝えているのかもしれない。
「天声人語」2022年3月4日

 このやりとりが事実かどうか、疑う余地は多分にある。しかし、それが戦場の真実を伝えていることは疑う余地がない。

***

 これが偶然の不思議というもので、同じ日の小説欄から:

 「第二次世界大戦でロシアがどんな国よりたくさんの死者を出したことはご存じですか」
 とMさんが急に話題を変えて、きびきびとした調子で言った。そんなことはありえない、原子爆弾を落とされた国の方がたくさん犠牲者を出しているに決まっている、とわたしは内心思ったが自信はないので黙っていた。後で調べてみよう。Mさんは目尻に皺を寄せてやさしく言った。
 「わたしの言うことを信じていませんね。それはいいことです。人の言うことをすぐに信じないで自分で調べてみることが大切です。わたしは記憶違いが多い。でもこの数字には自信があります。わたしにとっては、どうでもいい数字ではないので」
多和田葉子『白鶴亮翅』31

 僕も最近は記憶違いが多いが、Mさん同様この数字には自信がある。
 小学校で使っていた社会科地図帳の巻末資料に、第二次世界大戦における各国の死者の比較グラフがあった。

 日本 … 300万人超
 ドイツ … 500万人超
 ソ連 …1000万人超(詳細不明)

 子どもながら目を見張った。

 註が要る。1000万人あるいは2000万人超ともいわれる犠牲者のすべてが「ロシア人」だったわけではない。当時のソ連人全体の犠牲者数である。その中にはロシア人ばかりでなく、当然ながら夥しい数のウクライナ人やベラルーシ人が含まれていた。あるいはロシア人単独でも「最多」だったかもしれないが、1991年までそのことは主要な問題ではなかった。

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