2023年5月15日(月)
ミゾソバ、それに違いないと確信し、疑いももたず追加情報を求めて図鑑を開いた。何かの弾みに買ってあった牧野植物図鑑の学生版、1977年購入とある。緻密にして要を得た解説文をたどる視線に、突然ブレーキがかかった。
「花期は晩夏から秋」
え?
何度見直しても間違いない。突如暗転、ミゾソバ説は一瞬で吹っ飛んだ。地方により品種によって少々のズレがあるにせよ、夏過ぎて日が短くなる時期に咲く花が、初夏のこの時期に開花することなどあり得ない。いやいやしまった、誤った。
それにしてもよく似ていること。気を取り直して検索すれば、「ミゾソバに似た花」といった類いの記事がバラバラと出てくる。半可通がひっかかる定番の間違いと見える。人違いならぬ花違いの相手というのが、かの有名な
ママコノシリヌグイ(継子の尻拭い、Persicaria senticosa)
姿が似るだけでなく分類上もミゾソバと同じ、タデ科タデ属(またはイヌタデ属)の一年草とある。
形態上の鑑別ポイントは大きく二つ:
● ミゾソバの葉が牛の顔をさかさまにしたようなほこ形であるのに対して、ママコノシリヌグイでは三角形。
● 茎に下向きの刺があるのはどちらも同じだが,ママコノシリヌグイの方が刺が鋭い。
● 茎に下向きの刺があるのはどちらも同じだが,ママコノシリヌグイの方が刺が鋭い。
そしてミゾソバの夏期が晩夏~秋なのに対して、ママコノシリヌグイは5~10月、これがダメ押し。
あらためて接写に挑戦:
なるほどトゲの鋭いこと、そして葉の形はまぎれもない三角形である。ミゾソバのトゲと、「牛の顔」に譬えられる葉はこちら。
これはいかにも似たれども非なる好例。感動を噛みしめるうちに夜来の雨がすっかり上がって薄日が差し、小さなクモが仕事を始めた。ミゾソバならぬママコノシリヌグイの花柄と茎を支柱に、営々と巣をかけていく。
それにしても、ママコノシリヌグイというこの名称の凄まじさよ。継子の尻をこれで拭えとは、揶揄か風刺かはたまた逆説的な戒めか。韓国・朝鮮では「嫁の尻拭き草」と呼ぶのだそうで、これはもう凄すぎてレトリックの域に収まらない。むろん「嫁」とは「嫁いびり」の「嫁」のことであり、平成・令和の若者が誤用するような「妻」の謂いではない。
名前で損する草花と言えば、身近ではママコノシリヌグイとオオイヌノフグリが双璧である。「バラはどんな名で呼んでも良い香りがする」とはロミオがロミオであってほしくないジュリエットの台詞だが、あながちそうとも言えない気がする。
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