散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
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二十四節気 立夏

2023-05-09 08:33:23 | 日記
2023年5月9日(火)


立夏 旧暦四月節気(新暦5月5日頃)
 この時期に夏が始まるということの実感との乖離ばかりが意識され、節気の意義が以前はよくわからなかった。
 感じ方が変わってきたのは、たぶん二つの理由がある。
 一つは、季節の特徴を各相のピークに確かめるのではなく、変化の兆しを敏感に嗅ぎとる姿勢に、価値を認めるようになったこと。
 もう一つは、たとえば「春」「夏」といった言葉の本来の意味に、注意を向けるようになったことにある。
 「夏」といえば「夏休み」であり、八月である。あのうだるような蒸し暑さを「夏」とするなら、五月初旬の「立夏」はいかにも実感がない。しかし本来、「夏」とは太陽が力強くその生命力を発散して万物のうえに働かす、晴れ晴れと清々しいこの開放感に与えられた名称なのであろう。八月の蒸し暑さはその爛熟の顛末であって、「夏」の本質ではない。
***
 「立夏」や「夏立つ」は夏の代表的な季語にもなっています。群や歳時記のうえでは夏のはじまりですが、気配はまだ春の色合いが濃い時期です。
 野山の新緑が目にまぶしく、風が爽やかで心地よくなります。
 新暦では、ゴールデンウィークの終盤あたりから夏に向かって季節が歩きだします。
P.48-49

七十二候
 立夏初候 鼃始鳴(かわずはじめてなく)新暦5月5日~9日
 立夏次候 蚯蚓出(みみずいずる)   新暦5月10日~14日
 立夏末候 竹笋生(たけのこしょうず) 新暦5月15日~20日

 6日から7日にかけて久しぶりにまとまった雨が降った。その直前にしきりに蛙が鳴き、それを聞きながら刈っておいた裏庭の梨の木の回りに、今朝は膝の高さのタケノコが5、6本も生えている。
 令和の世にも節気は立派に通用し、内外の「気」をつなぐカレンダーとして有効利用可能である。

Ω

揶揄か風刺か戒めか

2023-05-08 11:34:06 | 花鳥風月
2023年5月15日(月)

 ミゾソバ、それに違いないと確信し、疑いももたず追加情報を求めて図鑑を開いた。何かの弾みに買ってあった牧野植物図鑑の学生版、1977年購入とある。緻密にして要を得た解説文をたどる視線に、突然ブレーキがかかった。

 「花期は晩夏から秋」

 え?
 何度見直しても間違いない。突如暗転、ミゾソバ説は一瞬で吹っ飛んだ。地方により品種によって少々のズレがあるにせよ、夏過ぎて日が短くなる時期に咲く花が、初夏のこの時期に開花することなどあり得ない。いやいやしまった、誤った。
 それにしてもよく似ていること。気を取り直して検索すれば、「ミゾソバに似た花」といった類いの記事がバラバラと出てくる。半可通がひっかかる定番の間違いと見える。人違いならぬ花違いの相手というのが、かの有名な
 ママコノシリヌグイ(継子の尻拭い、Persicaria senticosa
 姿が似るだけでなく分類上もミゾソバと同じ、タデ科タデ属(またはイヌタデ属)の一年草とある。
 形態上の鑑別ポイントは大きく二つ:
● ミゾソバの葉が牛の顔をさかさまにしたようなほこ形であるのに対して、ママコノシリヌグイでは三角形。
● 茎に下向きの刺があるのはどちらも同じだが,ママコノシリヌグイの方が刺が鋭い。
 そしてミゾソバの夏期が晩夏~秋なのに対して、ママコノシリヌグイは5~10月、これがダメ押し。

 あらためて接写に挑戦:

 

 なるほどトゲの鋭いこと、そして葉の形はまぎれもない三角形である。ミゾソバのトゲと、「牛の顔」に譬えられる葉はこちら。
 
 

 これはいかにも似たれども非なる好例。感動を噛みしめるうちに夜来の雨がすっかり上がって薄日が差し、小さなクモが仕事を始めた。ミゾソバならぬママコノシリヌグイの花柄と茎を支柱に、営々と巣をかけていく。



 それにしても、ママコノシリヌグイというこの名称の凄まじさよ。継子の尻をこれで拭えとは、揶揄か風刺かはたまた逆説的な戒めか。韓国・朝鮮では「嫁の尻拭き草」と呼ぶのだそうで、これはもう凄すぎてレトリックの域に収まらない。むろん「嫁」とは「嫁いびり」の「嫁」のことであり、平成・令和の若者が誤用するような「妻」の謂いではない。
 名前で損する草花と言えば、身近ではママコノシリヌグイとオオイヌノフグリが双璧である。「バラはどんな名で呼んでも良い香りがする」とはロミオがロミオであってほしくないジュリエットの台詞だが、あながちそうとも言えない気がする。
Ω


雑草という名の草はなし

2023-05-07 12:40:08 | 花鳥風月
2023年5月7日(日)
 中予というより瀬戸内一帯と言うべきか、ともかくこのあたりは雨が少ない。晴耕雨読は生活の理想だが、天気に任せていると「読」は少しも進まないこと必定で、そこは人為的な修正を加える必要がある。野原で遊んでいると、読み書きがバカバカしく思えてくるから困ってしまう。

 雨天を幸い骨休めかたがた、ここ数日出会った草花の記録から。

 カタバミ(酢漿草、片喰、傍食、Oxalis corniculata

 こちらが有名なカタバミさんだと知らなかったのは実に恥ずかしい。わが家の家紋は「三扇に剣方喰(みつおうぎにけんかたばみ)」だから、なおさら知らないで済まない理屈である。ちなみに「剣方喰」や「丸に剣方喰」など、方喰系の家紋は多いものの、三扇というヴァリエはなかなか見ることがなく、由来が気になっている。

 

 カタバミのすぐ近くで見たもので、検索では「タチカタバミ」という変種と出てくるが、それで良いものかどうか確信がもてない。

 
アメリカフウロ(亜米利加風露、Geranium carolinianum

 フウロソウ科フウロソウ属、在来種のゲンノショウコと同じ仲間だが、北アメリカ原産の帰化植物で1932年に京都で発見され、今では全国の道ばたでよく見かけるのだと。

トキワツユクサ(常磐露草、Tradescantia fluminensis

 ツユクサ科ムラサキツユクサ属の多年草。ドクダミの中に埋もれて見過ごしかけていたが、小さな貴婦人の風情あり。名前の漢字から在来種かと思えば実は南米原産、昭和初期に観賞用として持ち込まれ野生化したもので、外来生物法により要注意外来生物に指定されているとのこと。

 
ミゾソバ(溝蕎麦、Polygonum thunbergii または Persicaria thunbergii

 タデ科タデ属 (Polygonum) またはイヌタデ属 (Persicaria) に分類される一年生草本で、これは東アジアの在来種。田んぼの用水路がコンクリートで護岸されていなかった時代には、溝の縁などにごく普通に見られたという。ただし名前は「溝傍」ではなく「溝蕎麦」、見た目が蕎麦に似ていることから来るという。さらに「ウシノヒタイ(牛の額)」という別名があり、これは葉の形に依るのだと。下掲はピントがぼけているが、葉の形がよくわかる。
 

 
 サルスベリの足下にツルニチニチソウが密生し、その中からミゾソバやオオツルボが頭を出している。その向こうの石垣沿いの草むらの中で、クサイチゴをたくさん摘んだ。こうした細部に目をとめると、おいそれと草刈りなどできなくなってしまう。いっそ刈らずに置いておこうか。

 ついでに庭の果実から。
 

 もちろんサクランボ。甘酸っぱい美味で、ヒヨドリはじめ野鳥に6割はもっていかれる。ソメイヨシノよりは早く咲き、桃色味のない白い花弁に長い雄蕊が密生するのが特徴だが、何桜なのかよくわからない。

 
 これはアンズ(杏子・杏、Prunus armeniaca)、ヨーロッパでは近世に至るまでアルメニアが原産地と信じられていた故の学名だが、実際には中国北部説が有力らしい。『本草和名』(延喜18年/918年)には「杏子」と記し、和名をカラモモとしていたという。

 
 最後のオマケは柿の花、黄色い小さな花が枝先にびっしり付いている。秋の実りはこの時期から準備されているわけだ。

Ω