卍の城物語

弘前・津軽地方の美味しいお店と素晴らしい温泉を紹介するブログです

グミチョコレートパイン/大槻ケンヂ

2007-05-12 02:21:28 | 
この本の著者、大槻ケンヂを初めて見たのは、小学生のころ、とある歌番組にて、である。
彼は、奇抜なメイクを施し、「筋肉少女帯」と名乗り、「俺は高木ブーだーーー!!!」とスクリームしていたのだ。
その衝撃ときたら度肝を抜かすほどだったが、冷静に、マッチョでもねーし、少女でもねーし、お前は高木ブーじゃねーし。と、思ったものである。

時は経ち、彼は奇抜なメイクもヒビ入りのソフトな路線で、タモリ倶楽部などのアングラなテレビ番組で見かけるようになった。バンドマンというより、コメンテーターみたくなっていたのを覚えている。

更に時は経ち、友人より、面白い本があるとの事で借りて読んでみた。それが、本作の上巻にあたる、グミ編である。

グミチョコレートパインは、全3巻の小説である。グミ編、チョコ編、パイン編からなる。

主人公大橋賢三は、ネクラで、人見知りで、女とまともに話せないダメダメ高校生だが、彼は一般人から理解されないであろう、B級映画や小説、ロックをこよなく愛する少年であった。
俗世界を軽蔑し、自分こそが真の芸術の理解者だと自負することで、唯一誇りを感じてバランスを保っていた。
そして同じ趣味同士の仲間の、タクオとカワボン、そしてクラスのアブナイ奴、山之上を誘ってバンドを結成しようとする。
そんな中、学校一の美少女で、クラスメイトの山口美甘子と、B級映画専門の映画館で偶然出会い、意気投合する。
彼女も俗世界を嫌い、映画や小説を貪っていた。しかし、世間体を保つため、仕方無しに迎合していた少女であった。
一方的な片思いでありながら、二人でオールナイト上映をみて、映画討論を交わす仲になり、バンド結成も順調に進んでいた頃、彼女は雑誌でフルヌードを披露し、大物監督演出の映画の主役を射止めたのだった!

上巻のグミ編はこんな感じのストーリーです。読み終わった感想は、主人公の大橋賢三って昔の自分の事じゃん。と完全に感情移入というか、自分の高校生そのものだなと感じたのだ。
自分は人とは違う。自分は何か特別な才能をもっている筈だ。しかしまだそれが分からないだけだ。まわりの人間はバカばっかりだ。
根拠の全くない自信。狭い世界で感じる青春時代の井戸の中の蛙心理。恐ろしい共感を覚えた。

そして、山口美甘子はみるみるトップスターになっていき、共演のトップアイドル羽村とキスを覚え、セックスを覚え、今までの机上の空論を覆らせる実体験を吸収して、女になっていく。
賢三はバンドを結成したものの、自分が全く才能がないのに幻滅し、引きこもる。

チョコ編はこんな感じ。自分は何か特別だという自信が崩れ、自分何もない。自分はだめ人間だ。自分が身に付けてきたものは全て無駄だった。そんな事実を突きつけられる。

そして山口美甘子は世間から圧倒的支持を受け、トップアイドル羽村を踏み台にして更に上を目指し、羽村さえトップアイドルから突き落とす。
賢三は自分の無能さに愕然とし、自殺を考える。
しかし、山之上のジーさんから修行を受け、生きる意味を問いただされ、彼は答えを導き出した。
羽村は嫉妬から美甘子を貶めようとするも失敗。自ら芸能生活の危機を招く。その行動に激怒し、賢三は羽村殺害を計画するも、彼も、美甘子の才能に嫉妬して起こした行動だということに共感し、二人で逃亡。その後、美甘子に会いに行く。
しかし、久し振りの再会も空しく、彼女は賢三のことをよく覚えていなかった。
自分と美甘子のあまりの住んでいる世界の差に落ち込み、またもや自殺を考えるが、ソープ嬢と一発やってなんなく復活。そして仲間のバンドライブに駆け込み・・・。

パイン編がこんな感じです。追いつけ追い越せと目指してきたことが、レベルの差に愕然とする。手っ取り早い逃避の自殺願望。しかし、何か不確かものが見つかる。んー、青春だね。

ダークサイドな青春を送ってしまった損な私たちのためのバイブルがこの本。
マニアックなネタ満載。コミカルなバカらしくも笑える展開。ティーン独自の自意識過剰ぶり。
小説として完成はされてないけど、サブカル要素満載の青春スペクタクル巨編であることに間違いない。

大槻ケンヂのほかの小説も読んだが、悪いけど彼は音楽の才能はないけど、物描きとしては天才であるといいたい。
バンドモノ描かしたら右に出るものはいないぞ!ま、バンドモノというジャンルすらないけど・・・。

この小説ベースの漫画本もあります。
そっちはバンドものの漫画みたくなってる。小説はダークすぎるしね。
でも、漫画版の山口美甘子がまた可愛く描けていてグッド。こんな女の子いたら惚れるわ。

そう、この本の最大のテーマ、山口美甘子。
ロック、映画、小説を愛する美少女。彼女を探してこれからも生きていき、出会ったと思っては、幻滅し、そして誰かに妥協し、でもいる筈だと心の片隅に思い続けていく。
そんな幻想を簡単に打ち砕いてくれる魔性の女、山口美甘子に出会ったら、死んでもいいですけどね。

オススメ度(本評価)・☆☆☆☆

津軽/太宰治

2007-03-18 21:41:10 | 
小山書店の新風土記叢書シリーズの第七編。
終戦間際の昭和19年に刊行。

当時、太宰は代表作となる「人間失格」や「斜陽」などを生み出した人気作家だったが、彼は出版社から、新風土記なる企画を受け、故郷に帰り、本書を書き上げた。

本作は太宰の異色作とされるが、それもその筈、風土記なのだ。
しかし風土記といっても、旅行記であり、歴史書であり、エッセイであり、回想日記であり、そして私小説として、色んな要素を含んだ彼の最も愛に満ちた一冊なのである。

蟹田、三厩、金木、五所川原、木造、深浦、鯵ヶ沢、小泊と、津軽半島をぐるりと三週間かけて旅行する。
そのなかで、旧友と会い、酒を飲み、観光地をまわり、酒を飲み、生家に戻り、酒を飲み、最後に幼年期の乳母の「たけ」に会い、クライマックスを迎える。

単純に「たけ」との再会は涙ものである。
我儘な作者の性格から、会うことが出来ないかに思われるも、奇跡的にドラマティックな再会。
そして、平和な無言。彼女のセリフを津軽弁で読むと、殊更に感涙。

多くの太宰作品と違って、全体的に明るい雰囲気で意気揚揚とした作者の心が伝わってくる。
何より本作はユーモラスに溢れている。これほど笑った本も珍しい。

愛する故の故郷や津軽人の悪口。おきまりの国防上ネタ。蟹田のSさんの疾風怒涛の接待。芭蕉や「ある作家」の批判。鯛の五切れの話。たけに会えない苛立ちからの宿命論。そしてラストの文章。これは最高。どれも微笑ましく読めるのである。

この作品から、太宰同様「津軽」を見直すことが出来た。
そして津軽人として生きることに誇りを持つことが出来た。

太宰の美しくも重量感のある文体に酔いしれ、物語としても楽しめる最高の作品。津軽人必読の書である。

元気で行こう。絶望するな。では、失敬。

オススメ度(本評価)・☆☆☆☆☆

スラムダンク/井上雄彦

2007-02-01 20:15:47 | 
私が唯一持ってる漫画コミック。それがスラムダンク。

昔は色んな漫画本があったが、もう読まないと思ったものは売りまくり、なんだかんだでスラムダンクだけ残った。
1,2年に一度、全31巻を一気に読破することにしている。
ストーリーとかもう覚えてるけど、何回見ても飽きないんだよね。

今働いているバイト先は恐ろしく暇で、ほとんど座ってるだけの仕事なので、スラムダンクを持っていって見ることに。

これが流行ったのは、僕が小・中学校の時だった。
少年ジャンプに連載してて、数ある連載漫画で一番面白かった。
ライバルに「ドラゴンボール」や「幽遊白書」なんかあったな。

スポーツ漫画といえば、野球やサッカーが通例だったが、バスケットボール漫画なんかほとんどなかったし、人気も薄く、すぐ連載が終わるとのことで、タブーとされていたのだが、スラムダンクは見事に国民的人気を得た。
当時はこの漫画のおかげで、バスケットボール人口が爆発的に増えたのだ。

元ヤンキーの型破りの主人公桜木は、憎めない愛らしいキャラクターで、異常な成長を遂げ、一瞬の栄光を得て、物語が終わる。
他、多様なキャラクター揃い。
漫画特有の美少女は、晴子と彩子の二大ヒロインで良。
ちょい悪な湘北メンバーはかっこよく、スポ根さがほとんどない不真面目さがまた良。

高校でそれは無理だろうと思える数々のスーパープレイ。
いつも超接戦の試合など、漫画ならではの普通じゃあり得ない、しかし、それも許せてしまう、つい手に汗握るほど緊張感ある内容は本当に楽しめる。

ジャンプの連載最終回では、第一部・完となっていたが、コミックでは普通に、完となっていたのは悲しい思い出でした。
第二部いつやるのか!と楽しみにしていたあの頃が懐かしい。

ところで、最終回の続きがあるのです。
作者の井上雄彦が、廃校になった校舎の黒板に、その後のスラムダンクをチョークで描いたのです。
それがおしゃれ雑誌の「スウィッチ」に掲載されました。が、内容はよく覚えていない・・・。

真夏に一気に読むと、桜木とともに、ひと夏の夢が味わえて感慨に耽ることが出来ます。青春のスポーツ漫画は、これからも毎年読むことになりそうです。

オススメ度(本評価)・☆☆☆☆