第140回芥川賞受賞作の「ポトスライムの舟」を読みました。
タイトルの「ポトスライム」とは、葉を水差しするだけで育つ繁殖率の高い観葉植物らしい。
一応文中にポトスライムが何度か出てくるので、それを知らないもんで聴きなれない植物だからなかなかイメージしづらかった。でも知らなくてもそんなに差し支えない。
主人公のナガセは工場の契約社員。副業で友人のリツコが経営する喫茶店のアルバイトと、土日にはパソコンの講師をしている。
ナガセが工場で得る年収と、世界一周の旅費がほぼ同額である事から、ふとアルバイト収入のみで生活し、工場の収入を貯金して1年後に世界一周の旅に出ることを考えた。
そんな中、友人のそよ乃が離婚を考えてナガセの家に娘を連れて転がり込む。
決して裕福ではないが不幸でもない些細な日常の中に、いかにして希望を見出して仕事をこなし、生活していくのか。それがテーマだと思います。
芥川賞といえば純文学の新人賞ですが、作者がそんなに有名ではない事から、新人と同様と扱うのはいいとして、文章は決して純文学ではない。
緻密な描写、叙情的な表現、詩的な文体などは本作では感じ得ない。
自分も全く持って詳しいわけではないが、芥川賞の受賞作としては決していい評価を得ていないように思った。
レビューなどを見ると、絶賛などほぼ無く、酷評の方が多いほどだ。
かといって駄作などでは絶対にしてない。個人的な評価は、優秀な佳作と言える。
そもそも編集者が勝手にイメージ操作したから、評価が低くなってしまったと言わざるを得ない。
この御時世の非正規労働者の実態や、心情が描かれているような文句を謳っているが、それは全く持って違う!!
主人公はただ契約社員というだけで、さほど金に困ってはいないし、しかし目標するものが存在しないからただひたすら貯金し、欲も弱く浪費せず、趣味も持たず有効な時間活用としてひたすら働いているだけのことである。
根本的なテーマを履き違え、勝手に植え付けた販売戦略に本作の価値が作品の意図に反して捻じ曲げられてしまったのは不幸なのか。
それとも同じ境遇の輩が「蟹工船」よろしく購買し、ベストセラーになったのは幸なのか。
芥川賞選考委員の村上ナンチャラが「自分のコントロール出来る世界しか描いていない」みたいなこと言ってたが、作者の実経験が生かされた内容や、地元の町の描写などがあってもいいではないかと思うのだが。
元医者の作家は医療をテーマで描くし、元弁護士の作家は法律をテーマで描く。そんなの当たり前じゃないか。
元工場勤務の経験があったらそれを事細かに描いたら何故いけないのだろうか。理解に苦しむ。
それに地元の奈良の描写が詳細で、少し煩わしくも感じたが、地元の空気感や生活感というのは、そこで働いて暮らさないと絶対に描けないと思う。
作家が旅してその地方を舞台として描いても、やはりそんなに伝わってはこない。そこで生活していないからである。
作家は、想像からいかにして創造するかだが、読者が疑問に思わない程度だったら何でもアリという考え方は疑問に思う。
特徴的なのは、登場人物は全て女性という点だ(男の課長がちょっと出るけど)。
30手前の独身の女というのは複雑な心情だろうと安易に推測出来る。かといって既婚者でも、問題は個々にして多々あるだろう。
そんな日常的な問題がテーマで淡々とストーリーは進むから、人によっては本作が退屈に感じるかもしれない。
個人的には些細な日常の一コマというのが好きだから、リアルな心理描写には共感を覚えずにいられない。
そしてこの作品の一番のテーマは「仕事」であると思う。
「仕事」とは、「働く」とは何だろう?と純粋に疑問に思うのは実は女性ならではないかと感じた。
高校や大学を出た女性はまず就職し、そして結婚・出産の為に離職する。その後、家計に余裕のある者は専業主婦になり、余裕の無いものはまた復職するか、パートなどの仕事をする。
勝手な推測だけど、世の多くの女性はそんな過程を経ると思う。
世間的な結婚適齢期というものを逃した女性は、「仕事」を人生上、どう捉えるか考え抜くと思う。
運命的に巡り合えた天職でも無い限り、生活する為に否応無く働く人は大多数であろう。
生活する為に仕方ないと働き続けるか、新しい仕事を探すか、または結婚相手を探すか。
男性は働くという葛藤が絶対的に低い。自堕落な奴は置いといて、結婚しようがしまいが、必然的に働かなきゃならないから、「仕事」とは何かというのを深く考えないのかもしれない(業種や仕事の内容や人間関係は別として)。
別の作品だが、「働きマン」でもそれは感じた。
女性だから「仕事」とは何かを客観的に見れるのでないかと思えた。今までそれをテーマとして扱った男性作家はいるのだろうか?(エッセイとかは別として)。
そんなテーマがこの作品から充分に感じられ、身に染みる思いでページを捲った。
私自身、正社員、派遣労働者、アルバイト、農業などいろいろ働いたが、「生活する為」を抜きにしてみると、「仕事」って一体何だろうと悩んでしまう。
「人生の最高の幸福は好きな仕事に就く事だ」と誰かが言ってたが、全くその通りだと思うし、そんな人間は一握りしかいないだろう。
世界一周を目標として節約生活する動機はほとんどなく、思いつきでしかない。それでも単調な生活にスパイスを与えるべく、それに向かって地道にゆっくりゆっくり歩む姿は美しいではないか!!
私自身も、ニヒルな日常から些細な希望を見出し、ゆっくり何かに向かって歩みたい。そう思わせてくれる勇気強い本である。
同時収録の「十二月の窓辺」も「仕事」について考えさせられます。
オススメ度(本評価)・☆☆☆
タイトルの「ポトスライム」とは、葉を水差しするだけで育つ繁殖率の高い観葉植物らしい。
一応文中にポトスライムが何度か出てくるので、それを知らないもんで聴きなれない植物だからなかなかイメージしづらかった。でも知らなくてもそんなに差し支えない。
主人公のナガセは工場の契約社員。副業で友人のリツコが経営する喫茶店のアルバイトと、土日にはパソコンの講師をしている。
ナガセが工場で得る年収と、世界一周の旅費がほぼ同額である事から、ふとアルバイト収入のみで生活し、工場の収入を貯金して1年後に世界一周の旅に出ることを考えた。
そんな中、友人のそよ乃が離婚を考えてナガセの家に娘を連れて転がり込む。
決して裕福ではないが不幸でもない些細な日常の中に、いかにして希望を見出して仕事をこなし、生活していくのか。それがテーマだと思います。
芥川賞といえば純文学の新人賞ですが、作者がそんなに有名ではない事から、新人と同様と扱うのはいいとして、文章は決して純文学ではない。
緻密な描写、叙情的な表現、詩的な文体などは本作では感じ得ない。
自分も全く持って詳しいわけではないが、芥川賞の受賞作としては決していい評価を得ていないように思った。
レビューなどを見ると、絶賛などほぼ無く、酷評の方が多いほどだ。
かといって駄作などでは絶対にしてない。個人的な評価は、優秀な佳作と言える。
そもそも編集者が勝手にイメージ操作したから、評価が低くなってしまったと言わざるを得ない。
この御時世の非正規労働者の実態や、心情が描かれているような文句を謳っているが、それは全く持って違う!!
主人公はただ契約社員というだけで、さほど金に困ってはいないし、しかし目標するものが存在しないからただひたすら貯金し、欲も弱く浪費せず、趣味も持たず有効な時間活用としてひたすら働いているだけのことである。
根本的なテーマを履き違え、勝手に植え付けた販売戦略に本作の価値が作品の意図に反して捻じ曲げられてしまったのは不幸なのか。
それとも同じ境遇の輩が「蟹工船」よろしく購買し、ベストセラーになったのは幸なのか。
芥川賞選考委員の村上ナンチャラが「自分のコントロール出来る世界しか描いていない」みたいなこと言ってたが、作者の実経験が生かされた内容や、地元の町の描写などがあってもいいではないかと思うのだが。
元医者の作家は医療をテーマで描くし、元弁護士の作家は法律をテーマで描く。そんなの当たり前じゃないか。
元工場勤務の経験があったらそれを事細かに描いたら何故いけないのだろうか。理解に苦しむ。
それに地元の奈良の描写が詳細で、少し煩わしくも感じたが、地元の空気感や生活感というのは、そこで働いて暮らさないと絶対に描けないと思う。
作家が旅してその地方を舞台として描いても、やはりそんなに伝わってはこない。そこで生活していないからである。
作家は、想像からいかにして創造するかだが、読者が疑問に思わない程度だったら何でもアリという考え方は疑問に思う。
特徴的なのは、登場人物は全て女性という点だ(男の課長がちょっと出るけど)。
30手前の独身の女というのは複雑な心情だろうと安易に推測出来る。かといって既婚者でも、問題は個々にして多々あるだろう。
そんな日常的な問題がテーマで淡々とストーリーは進むから、人によっては本作が退屈に感じるかもしれない。
個人的には些細な日常の一コマというのが好きだから、リアルな心理描写には共感を覚えずにいられない。
そしてこの作品の一番のテーマは「仕事」であると思う。
「仕事」とは、「働く」とは何だろう?と純粋に疑問に思うのは実は女性ならではないかと感じた。
高校や大学を出た女性はまず就職し、そして結婚・出産の為に離職する。その後、家計に余裕のある者は専業主婦になり、余裕の無いものはまた復職するか、パートなどの仕事をする。
勝手な推測だけど、世の多くの女性はそんな過程を経ると思う。
世間的な結婚適齢期というものを逃した女性は、「仕事」を人生上、どう捉えるか考え抜くと思う。
運命的に巡り合えた天職でも無い限り、生活する為に否応無く働く人は大多数であろう。
生活する為に仕方ないと働き続けるか、新しい仕事を探すか、または結婚相手を探すか。
男性は働くという葛藤が絶対的に低い。自堕落な奴は置いといて、結婚しようがしまいが、必然的に働かなきゃならないから、「仕事」とは何かというのを深く考えないのかもしれない(業種や仕事の内容や人間関係は別として)。
別の作品だが、「働きマン」でもそれは感じた。
女性だから「仕事」とは何かを客観的に見れるのでないかと思えた。今までそれをテーマとして扱った男性作家はいるのだろうか?(エッセイとかは別として)。
そんなテーマがこの作品から充分に感じられ、身に染みる思いでページを捲った。
私自身、正社員、派遣労働者、アルバイト、農業などいろいろ働いたが、「生活する為」を抜きにしてみると、「仕事」って一体何だろうと悩んでしまう。
「人生の最高の幸福は好きな仕事に就く事だ」と誰かが言ってたが、全くその通りだと思うし、そんな人間は一握りしかいないだろう。
世界一周を目標として節約生活する動機はほとんどなく、思いつきでしかない。それでも単調な生活にスパイスを与えるべく、それに向かって地道にゆっくりゆっくり歩む姿は美しいではないか!!
私自身も、ニヒルな日常から些細な希望を見出し、ゆっくり何かに向かって歩みたい。そう思わせてくれる勇気強い本である。
同時収録の「十二月の窓辺」も「仕事」について考えさせられます。
オススメ度(本評価)・☆☆☆