Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 113

2021-02-24 17:43:44 | 日記
 「それでは元気でおありなのですね。」

私の耳に急に大きな声が聞こえた。やはりその声は私が思い当たった女性、一郎伯父の奥さんに当たる伯母の声の様だ。私は思った。

 「では、私達はこれで。」と、続いてハッキリとそんな声も聞こえて来た。キッパリとした伯母のその口調に、居間にいた私はハッとした。廊下の奥で何だか険悪そうな雰囲気が漂っている様だ。そう私は先程から感じていたが、これでやはりそうらしいと私は合点した。

 先程から居間にいて、廊下の声が小声になり聞き取れなくなってからの私は、自然、身近な座敷の中に在る私の父と、三郎叔父の従兄弟の会話に注意が向いていたのだが、今度は何事だろうと身を固くして、再び廊下の方の物音に耳を澄ませた。祖母と伯母らしい人物は何を争っているのだろうか?。

 まぁまぁと、微笑んで取りなす様な祖母の声がした。そう急がなくても、せっかく来たのだから挨拶ぐらいして行きなさい。そんな事を彼女は言っている。祖母と伯母、さっき2人で挨拶していたんじゃないのかな?、と私は不思議に思った。が、それもよく聞こえ無い話し声だったからと、私は、先程の話は聞き間違えたのかもしれないと考え始めた。祖母の穏やかな声を聞くと、2人が争っていると私が取った事も間違いだったのかもしれない。こう考え始めると私は自分の思索に耽り始めた。

 「如何してそんな事、子供達にそんな事させられません。」

伯母の声だ。やはり穏やかな雰囲気とは言えなそうだなと私は思った。その後はぽそぽそと祖母と伯母の互いに語り合うらしい気配がしていたが、「もう、いい加減にしては如何です。…」と、どうやら私の父の声も会話の中に入って来ている事を私は聞き取った。その内女の子達の、ええ、はいと言う様な、何かに頷く返事の声があり、廊下は何とは無く静かになった。

 「もうお前は帰れ。」

急に障子襖の向こう、こちらから間近な場所ではっきりとした私の父の声がした。先程から従兄弟と彼が話し合っていた場所だ。「もうここへ来た目的は果たしただろう。」、そうも父の言う声がした。それに対して私の従兄弟は何やらごねごねとぐずっている様子だ。

 「未だだよ。未だお願いはある。」

途中で叔父さんに呼ばれたからここに来たのだと、従兄弟にすると不満気に父に苦情を言う声がしている。もういいじゃないかと父が言えば、最後が一番の、私がしたいお願い事なのだと、従兄弟はこれは叔父さんの言う事でも譲れないと頑張り始めた。

 本当に、何だろう?、何を長々と揉めているのだろうと、私は父と従兄弟の遣り取りが本格的に気になり始めた。そこで私は一歩歩を踏み出して、思い切りよくパタパタパタと歩を進めると居間を後にして、隣の階段のある部屋に入ると座敷の入り口へと一気に進んだ。

 座敷が私の視界に入って来ると、一番に押し入れの襖が開いていてその中に収められている仏壇が目に入った。そうしてその前に置かれた、畳の上に有る座布団が目に入った。座布団の上には紐で繋がった小振の拍子木がちょんと載っている。これには、ああと私の気に留まる物が有った。

 『打ち鳴らしてみたいな。』

私はふと思った。さっき従兄弟が打ち鳴らしていた奴だ、羨ましいな。私は思った。そうして、私は座敷の戸口に立つと立ち止まり、部屋の中を覗いて父と従兄弟がいる辺りに目を遣った。こちらを向いた父がいる。そうしてそんな父の前、私に背中を向けるようにして父の前に立つ、従兄弟の幼い姿を私はすぐに認める事が出来た。