私にはもう子がいるし、その話は過去の物だ。もうこの家には跡取りがいるんだ。お前の話は無理な話という物だ。そう静かに、叔父は大人らしく子供に噛んで含めるように説明を続けた。
「それは変な話だ。」
叔父さんの言う事は一々おかしいね。こう子供は叔父の話に口を挟んだ。
「私は叔父さんが兄に養子の話をしたのを覚えている。」
叔父さんは私の目の前で私の兄にその話をしていたんだ。私が覚えているくらいだ、その頃もう智ちゃんはこの家にいたんじゃ無いのかい。そう子供は指摘した。自分とは一つ違いの従兄弟の事だ。自分が言葉が分かり、そんな叔父と兄が話をする記憶があるような歳になっている頃だ。この家にいる私の従兄弟は、もうこの世に生まれていた筈じゃ無いのかと子は目の前にいる叔父に言い募った。
それに対して叔父は目を閉じ寡黙であった。首を項垂れた彼は子に対して言い訳するしかなかった。
「仕方無かったんだ。」
この家にいるには仕方無かったのだと彼は子供に訴えた。「生まれたと言っても、未だ海のもの、山のものともつかない赤子に、未だこの家を任せられるかどうか分からないだろう。」。あの時は、私がこの家に留まるのには、私には確りした跡取りが必要だったんだよ。こう叔父は親戚の子に告白した。
「あの時、判断が付く男子はお前の兄1人だっただろう。」
こう叔父は子に諭した。
すると子は言った。「それなら兄で無く私でどうです。」。もう海や山の判断のつく歳だし、今はこの家に従兄弟もいなくなった。と、叔父に訴えた。座敷は再びシンとなった。
さて、私は居間で耳を澄ませていた。私の父と従兄弟は何やら真面目な話をしている様だ。従兄弟は父に怒っている様子だと声音で分かる。その内容はと注意を向けていると、どうも私も関係がある様子だと気付いた。2人の話の内容がある程度分かってくると、私は自分が生まれた事が悪い様な気持ちになっていた。
『それでなのか。…』
私は、座敷にいる従兄弟の長兄、その従兄弟が、普段私に対して何かしら余所余所しく感じられ、そっけなく、もしかしたらと、私を避けているのでは無いかと感じた時の、彼の様子、その私を見ていた彼の面差しを思い出していた。