さて、その帰り、私は勝手口の戸口に手をやって、目的地の先にあった明るい裏庭に目を奪われて見遣っていた。人心地着くと、私は台所の廊下へと帰途に着いた。
次に目に入ったのが台所から見渡す事が出来る中庭だった。季節の新緑に日差しが煌いていた。私は窓から入る薫風や白光を浴びる庭の光景に思わず足を止めて、その時候を思いっきり満喫すると気分一新、益々清々しい気分になった。ここへ来る途中の両親の事等何処へやら、そんな事等すっかり私の脳裏からは消え去ってしまっていた。
この様に台所で自然を満喫し、明朗になった私が居間へと続く廊下の出口に達し、1歩戸口に足を踏み入れてみると、隣の部屋で未だ変化無く存在し続けている両親の姿が目に入って来た。この時の私は落ち着いた心境になっていたので、父の虎馬遊びに付き合う相手が祖母から母に変わっているという疑問を、その入れ替わった人物、母である私にとっては普段質問するのが至極面倒な女性に対してでも、思った儘に質問してみようという気分になった。
「お母さん、」
お母さんだよね、今日は如何してお母さんなの?。こう唐突に話し掛けても、話し掛けられた母はすぐには返答出来なかった。それはそうだと思う。彼女はやや難しそうな表情を浮かべて私の顔を見ると黙っていた。
「いつもはお祖母ちゃんでしょう、お父さんの相手は。」
そう私が言うと、母の口元がちょっと綻んだ。少し置いて彼女は何がと尋ねて来た。
「お父さんの遊び相手だよ。」
と、私。
私のこの言葉に、母は妙な笑い顔を浮かべたが、お父さんの遊び相手って?と言葉を返し、俄然私とは話が合わない風情になって行く。私に取って母との会話は何時もこのような調子になる。そういう場合が多い。が、その日は特にちんぷんかんぷんだった。互いにお互いの言いたいことが分からない状態で、母も他に何やら考え事があるらしく、私の言う事は上の空、私の行動も上の空だった。現に母は私がそんな彼女に愛想を尽かし、そろそろとその場を離れ、静々と階段を2階へ上って行く姿を、何も咎めず黙って見逃してしまったのだから。常ならば、私の背を追いかける様に彼女から一言二言ある場面だった。