Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(34)

2018-03-31 08:59:29 | 日記

 「…ちゃんたら…。」

「ふざけて、まだそんな物いないでしょう。」ごく普通に軽くそう言うと、年下の子のお道化た態度に気持ちが落ち着いてきた年上の彼女は、自分の言った言葉に責任を感じて、念の為自分の足元を見下ろして辺りを見渡すとその付近の枯れ草などを足でいじくってみるのでした。

   勿論、冬越しして既にこの時期いる数匹のダンゴムシが急いで逃げ出す姿が彼女の目に入りました。『もういるんだ。』と、彼女は自分が口から出した言葉の間違いに気付きました。当然内心焦りました。ご近所のおじさん、目の前の年下の女の子の父親から前以てなるべく間違いは教えてくれるなと言われていたのです。おじさんの信頼を得て年下の子の面倒を見ていた確り者の彼女は困りました。『何とか訂正しないと…。』

 それにしても、と、彼女は思います。『今のあの子の態度や口調、おじさんそっくりだわ。親子は似るっていうけれど、本当のことね。』目の前の娘、その父を思い浮かべると、笑い方、物の言い方、自分が不機嫌な時のご機嫌の取り方など、全く同じ態度だとちょっと感動しました。『おじさんのお仕込みがいいんだわ。』そんな点、近所のおじさんには感心するのでした。そして、落ち着いて考えてみると、年下の子に先んじられた事、また、この場に長時間彼女が1人でいて平気な様子が癪に障って来ました。

 年上の私の方から先に何か言葉を言うんだった。そう思うと、自然に「もう帰ろう。」と、正直に思っていた言葉がついぽろりと彼女の口から出てしまいました。こんな風に本音が出てしまうと、再び彼女は最初の感情に囚われるのでした。

   くわばらくわばら、こんな所はもう沢山、一刻も早く家に帰りたい、こんな子を捜して迎えに来るんじゃ無かった。そう思うと、手の掛かる年下の彼女の子守が苦痛になって来ました。そうだ!ご近所の年下の子でこの子と同い年の子に、この子の事は押し付けて置こう。そうだ、そうだ、良い事を思いついた!。と、そう思うと彼女の方を見詰めてにんまりと笑いました。

 『…ちゃん、ご機嫌が直ったんだわ。』

お姉さんのその笑顔を見て、私もしてやったりとにんまりと笑うのでした。

 


土筆(33)

2018-03-30 20:07:13 | 日記

 何かって、と言うと彼女はまた口ごもりました。

「何かよ。」と言う彼女の震え声や膠着した顔つきが、何だか緊張した雰囲気を感じさせました。私は彼女の言う「何か」を思い付く事が出来ませんでした。それで、「何かって、なあに?」と彼女に尋ねてみます。

 何時もなら親切にあれこれと教えてくれる彼女でしたが、その時、彼女は容易にその「何か」の正体を私に明かしてはくれませんでした。彼女は再三の私の問いかけに終始黙っていました。そして、遂に彼女は

「…ちゃん、知っていて、私にその名前を自分の口から言わせるの。」

と、震え声で憤ったような声を発しました。面食らった私には、彼女が何故怒るのかさっぱり事情が分かりませんでした。この日もうこれ以上の不思議を受け付けられなかった私は、この出来事に返って無感動でした。ぽかんと口を開けて彼女を見詰めると2人の間に無言の時が流れました。『怒った…ちゃんは初めてみた。』と彼女を見詰めながら思いました。

 私は一計を案じて「分かった!、何かってダンゴムシでしょ。」と、如何にも今思い付いた様に、先ず違うだろうという答えで2人の間の口を切りました。それでもまだ彼女は無言のままでした。それでまた私は「蟻かな?」と、ニヤニヤして彼女の顔を見詰めました。そうして、「蟻もダンゴムシも此処には出て来ないみたい。」と、地面を落ちていた小枝で掘り返しながらお道化たように言ってみせました。すると漸く彼女から何時もの笑みが零れました。


土筆(32)

2018-03-30 19:59:59 | 日記

 「違う、そうじゃ無くて、…」

私も今言った自分の答えを思い返すと、答え方が不十分だったとお姉さんに恥ずかしくなりました。赤くなった顔を思わずお姉さんから背けて、如何言い繕おうかと考え、その内言葉がまだ答えの途中だったという事に気付きました。この後如何言って言葉を続けようとしていたか、如何言ったらきちんとした答えとして自分の言葉が通じるだろうかと考えます。

「考えていたの。」

と言うと、きちんとした答えになる「土筆の事を考えていたの。」と再度答えると、漸くお姉さんも合点しました。きちんと言葉が通じたので、ほっとした私も漸くお姉さんの方を向く事が出来ました。この頃の私は、父の賢い子に育てたいとの理想が高く、可なりこましゃくれた子であった事は間違いありません。

 「ねえ、」とお姉さんは少し言いにくそうに私に声をかけました。しばらく沈黙して、やはり何か言いたそうに、ねえと声をかけて来ました。何かしらと、私には次に掛けられる彼女からの言葉が予想出来ずにいました。何しろ、この時の私にはこの先の見通しなど全然立たない状態だったのです。まだしゃがんだままでいました。私が物問いたげな彼女の顔を見ていると、やはり何かを言いたいけれど言いにくいという感じでした。それで私は自分の方から、なあに?と「…ちゃん、何か言いたい事があるの?」と聞いてみました。それで彼女はどうやら口を開きました。

 「…ちゃん、ずーっとここにいて、」

と、彼女は、「何か出てこなかった?」と聞くのです。私には意外な質問でした。何かって、なあに?


開花しました

2018-03-30 19:36:06 | 日記

 今週の好天続きに、瞬く間に枯れ木の様だった桜がピンク色に染まって行きます。暖かさと共にポンポンと花びらが開き、可憐なピンク色が木々に広がって、もう満開も近いです。今日は2分か3分咲きと言った感じでした。勿論私見です。

 この好天に、庭の整理に大忙しです。慌てずにのんびりと整理しています。やはり花は良いですね。新芽を見ていると微笑ましくなります。新芽が伸びていくのを見るのも楽しいものです。


土筆(31)

2018-03-28 17:50:33 | 日記

 「…ちゃん、どれだけここにいたと思う?」

そう思い付いた様に、私の名前を呼びながらお姉さんが聞いて来るので、私は、彼女がすぐに戻って来たのだからそのくらいの短い時間よ、と答えるのでした。そしてちょっと意地悪そうに、「…ちゃん、帰ったんじゃなかったの?」とお姉さんの名前を言いながら聞くのでした。それから私は彼女に虚勢を張ってみせようと、「私は此処で一人でも平気よ、…ちゃん、帰ったら。」等とぷんとして言うのでした。

 お姉さんは拍子抜けしたように「帰ったんだけど。」と、…家には1度帰って、私が如何したのかと私の母に聞かれて、それで私を捜しにまた此処へ来たのだけれど…という様な事を、淡々と微笑しながら、誰に言うでも無いという雰囲気で私に答えてくれました。

 お姉さんは捜しに出た迷子のご近所さんに気辛く感じ、その子の問い掛けに答えながら考えていました。『私が帰った後、あの子そのまま此処にいたんだ。さっきと同じような場所にいるから、ずーっと此処で1人でいたんだろうか?静かだから此処の周りにも誰もいないみたいだし、此処へ来る途中にも誰も見なかったから、此処の施設の中にも誰もいないみたいだった。本当にこの中で、この場所で、あの子1人でいたんだ。ならこんな場所で何してたんだろう。』そんな疑問が湧いて来たのでした。そこで彼女は屈み込んでいるご近所の女の子に聞いてみる事にしました。

 「此処で何してたの?」

私の方を見て再びお姉さんが話掛けて来ます。私はそれは決まった事だとばかりに真顔でお姉さんを見詰めると、「土筆のことよ。」と答えました。土筆?の事?と怪訝そうにお姉さんの方は聞き返します。何しろ私の答えは答えになっていないのですから当たり前です。此処で土筆を取っていたのかと聞かれます。