Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 145

2020-01-31 11:02:00 | 日記

 「昼寝は子供のお仕事だものね。」
母は笑顔だが、声音はこう皮肉っぽく言った。

 私には母の言葉もこの物の言い様も合点が行かなかった。何しろ、寝込んだ記憶が全く無かったのだ。私がいくら自分の記憶を探ってみても、つい今し方迄昼寝をしていたという事実に思い当たれなかった。
「私が?、昼寝を?、…」
こんな縁側で?。と不審そうに言葉を並べていると、母は不承不承の顔付きになったが、「お前がそう思うんなら、そうなんだろうさ。」と言って、私達母子の会話を切り上げた。

 私は続けて今迄自分が昼寝をしていたかどうかを考えていたが、この縁側の床に転がっていた事や、母の後ろ姿が間近にあり、衣類や母の背が自分の目に大きく映っていた記憶が有る事等頭に浮かんで来るのだが、それが自分の昼寝と如何にも結びつかないでいた。

「変だなぁ…。」

私は呟いた。昼寝なら昼寝で、寝付く迄や、寝ていてから起きた時の記憶が有る筈なのに。私には自分が昼寝をしていたという確かな記憶がさっぱりないのだ。自分ながらにこの事が不思議で仕様が無い私は、変だなぁと呟いて首を捻るばかりだった。

 そんな私の傍らで、母は溜息を吐くと、お前まだ寝ぼけているんじゃないかい等、言うと、仕事の手を休めて嫌そうな視線を私に向けた。

「私は今日中にここを仕上げるよう言われているから、お前の相手は出来ないからね。」

と、前もって駄目を入れた。

 私にしても特に母に相手をして貰う気等全く無かったが、ふと母の抱っこしてあげるという言葉を思い出した。すると内心ふふふと、忙しそうな母を構いたくなる邪気が起きた。

「お母さん、さっき言った事は?。」

「さっき?。」

「確か抱っこしてくれると言ったでしょう。」

と如何にも幼げに私は言った。母は向こうを向いてほら来たと零した。

 「私は、先に言ったね。」

私に向き直った母はこう言うと、お前より先に、忙しいと言っただろう。こうなると思って言っておいたんだよと、この仕事もお前のせいで増えたんだろうとぶつぶつ零し出した。母の不平が始ると、障子の向こう側からエヘンと咳がした。如何やら祖父のようだ。男性の声らしかった。母は言葉を止めて顔を障子の方へ向けた。その儘暫し障子の向こうを窺っていたが、私の方を向いた時の母の顔には笑顔が浮かんでいた。そして優しく私に語り掛けて来た。

 母は手に持った糠袋の説明をした。そうして見ていてごらんと、「ほらね、こうやって拭くと、」と、床をすいっと拭いて実演してみせた。ね、綺麗になっただろうと言う。

 その時母の拭いた個所は丁度私が今朝手に怪我をした場所だった。例の板に出来たささくれが有る個所だ。私がそのささくれに気付くのと、母が再び糠袋を滑らせその上を通り過ぎる事が重なった。お陰でささくれが元あった場所に押し込まれ、綺麗に均される場面が私によく分かった。なるほど、これで安心だと私も母同様にこやかに笑みを浮かべて母の顔を見詰めた。

『床も綺麗になるものだなぁ。』

パズルの組み合わせがきちんと合ったような爽快感を私は覚えた。

 「如何だい。」

母は得意げに言うと、私に向けていた彼女の顔を私とは反対側の障子に向けて逸らした。そして顔を逸らした儘、糠袋をすいっと元来た方向へと戻した。すると、如何いう訳か床のささくれが糠袋の通過と共に起き上がって又元の様にささくれ立った。私はその尖った危険な棘達に目を丸くして驚いた。元の木阿弥である。母の苦労も水の泡、無駄になるというものだ。こうなると糠袋の効力も何もあった物では無い。

 母は再び私の方へ視線を向けると、にこにこしてまた同じ個所に糠袋を滑らせた。ささくれはまた横に均された。美しい床面だ。そして糠袋が再び戻されると、ささくれはその袋と共に再度置き上がった。これを再度目撃した私は、自分の髪の毛や背中の毛がささくれ同様に総毛立つ思いがした。気分的にもささくれ立った。

『これだもの。』

この人は何をやっても、こんななのだからと思った。溜息だった。


今日の思い出を振り返って見る

2020-01-31 10:58:37 | 日記
 
ダンスは愉し 8

 「桃子ちゃん、バレエ習ってたの?」目を見開いて、半信半疑で問いかけて来る自分の従妹に、桃子さんはええそうよと事も事も無げにすまして答えました。「すずちゃん、知らなかったの......
 

 いよいよ今夜半から雪の予報です。来週も雪マークが見えてきました。あまり降らないとよいのですが、雪掻き道具の用意をして置かないといけませんね。


うの華 144

2020-01-30 10:32:35 | 日記

 何やらガサガサと音がしたようだと思う。見ると目の前にゆらゆらと、私の目に映る動きの有る物体が在る。『これは何だろう?。』と私が眺めてみると、それはどうやら見覚えのある母のスカートの様だ。

『お母さんだな。』

母のスカートだと気付いた私は思った。衣類の材質や色に見覚えがあった。これは今朝母が、私が見るともなしに見ている前で穿いていたスカートだ。

 母は殆ど柄物の衣類を身に着けなかった。このスカートは母が下ろして間もない物だったから、私の記憶には特に鮮明だった。妙に目の前に大きく映る母のスカート、この部分は臀部である。見上げると、スカートの上には母の背が上に向かって台形に広がって見えた。その登頂に、見えたり消えたりしている黒っぽい物は何だろう。ぼんやり考えながら、私はごろごろと寝返りを打ったり、あちらこちらと転がってみたりした。私の目に入る光景から察すると、どうやらここは縁側らしい。『縁側だ!。』私は思い出した。

 自分が縁側にいるという事は、同じ縁側に母がいたっけ。そうだそうだと気付き、私は横に転がっていた身を起こした。立ち上がった私が母のいた方向を見ると、母は私に背を向けてごしごしと作業中だ。今度は母のそんな背中が、私の目には漸く普通サイズに見えた。

 「お母さん。」

私は作業している母に声を掛けた。思い出してみれば、私は母に呼ばれてこの縁側に足を踏み入れたのだ。

「お母さん、私に何の用が有るの?。」

母に尋ねてみるが、母はうんともすんとも返事をして来ない。そこで私はとことこと母の側面に回って、母の顔を覗き込んで見るが、母は床を見詰めた儘だ。彼女は視線を落として生真面目な顔をして作業を続けている。手を止める気配は無さそうだった。そこで私は、先程の母とのやり取りの様子を思い出して言った。

 「抱っこしてくれるというんじゃなかった?。」

これには母は手を止めて、「抱っこ?」と、不思議そうに言葉を発した。しかし次の瞬間には、一旦止まった彼女の手は再び動き出し、彼女は眉間に縦皺を作りちょっと嫌な顔付きになっていた。

 私がそんな母の顔や様子を、少し離れてよくよく眺めてみると、母は床にぺたりと膝を付いていて、片手には布袋を持ち、その布袋でごしごしと床を磨いているのだった。ははぁん、手の袋は糠袋だなと察しがついた私は、彼女が随分長く熱心に床の手入れを行っているという事に気付いた。思えばそれは、今朝私がここで転び怪我をした事に原因があるのだ。この事に考えが及ぶと、私はこの目の前の母に感謝すべきだと思った。

 『お祖母ちゃんの言う通り、お母さんは良い人なんだな。』

そんな考えが私の頭に浮かんで来る。確かに、長時間、母はここで飽きもせずに床磨きをしているのだ。それは多分私の為だ。出来た人と言えるだろう。私はここで母に対する考えを改めようと考え始めた。

 私があれこれと考えながら、偉いなぁと母を見詰めていると、彼女はどうやらそんな私の視線を読み取った。母はちらちらと私の顔色を窺っていたが、その内に、にこやかな笑顔をその頬に浮かべると、彼女の方から私に話し掛けて来た。

 「智ちゃん、目が覚めたんだね。」

え!と私は思った。

「ちゃんと目が覚める迄待っていたんだよ。」

こう母が言うものだから、私は面食らった。私には思いも掛けない母の言葉だったのだ。何しろこの時の私には、寝込んだ記憶も、寝ていた記憶も無かったのだ。私には母の話を如何判断仕様も無かった。


今日の思い出を振り返って見る

2020-01-29 11:14:11 | 日記
 
ダンスは愉し 7

 鈴舞さんが日舞の次に出会った踊りは、バレエでした。その前に、学校行事で民謡などの踊りを覚えたりしましたが、子供向けに簡略化されたもので本格的な踊りではありませんでした。が、鈴舞さ......
 

 今週末から寒くなりそうです。雪の予報も出ていました。来週は雨のようですが、気温的にも冬らしい気候になるようです。

 今日はこの記事の後、新規に書き込みが出来なかったので、(インターネットが込み合っているのでしょうね、新型コロナ肺炎の影響かもしれません。)「うの華 143」は、このページの前にアップしてあります。


うの華 143

2020-01-28 14:58:21 | 日記

 よし!

私はこれで完全に目が覚めた。と思った。目を瞬いて、私は大きく丸く目を見開くと、暗い廊下から明るい縁側の入り口に戻った。

 私はそこにいる母の姿を確りと目で捉えた。そして私と母の目が合った。が、私の視界は又直ぐに霞掛かって来るのだ。おかしいな、ちゃんと目は覚めたはずなのに…。

『史君の方法は当てにならないな。』

と私は思った。

 私の頭は益々ぼんやりしてくる。しかしここで母と目が合った手前、あからさまに目に手をやって擦る訳には行かないと私は思った。私は母に、自分が尋常では無い状態だという我が身の不利を知らせたく無かったのだ。

 母の方は私の、一度壁に身を隠して再度姿を現したという行動がやはり不可思議だったようだ。ちょっと顔をしかめたが、それでも直ぐに又元の笑顔に戻った。いくら私の視界がぼやけているといっても、この彼女の微妙な変化は私にも分かった。

 彼女は前同様手招きして私を呼んだ。今回は両の手を私に向けて広げ、「ほら抱っこだよ。」等と甘い言葉も投げつけて来た。

 ふふふ、と私は不覚にも口元に笑いを漏らした。きっとふやけた笑顔だった事だろう。私には母の下心が見え見えだった。彼女はそれだけ何か思う所が有って私を自分の元に呼び寄せたいのだ。どんな理由が有るのだろう?。眠気が勝ってぼんやりして来た私の胸の内には、警戒心も揺らいで来て、確りと自分を保つという事が出来ない。何しろ何時もなら心の内でだけ漏らす忍び笑いだ。私はやはりこの時点で夢現だったのだ。何時しか縁へと下ろした自分の足も、踏みしめると何だか覚束無い感覚に私には思えた。頭はくらくら、足元もゆらゆらする。

 縁側を来る我が子のこの体たらくの様子を見て取ると、母は流石に私の睡魔を察知した。自分の元へと近付いて来る私に向かって

「お前、眠いんだね。」

と一言断言した。

 お前、もう昼寝は卒業したんだろう。そう呆れた様に私に向かって言う母に、私は

「子供は昼寝がお仕事の一つ。そうだろう、そうお母さんは言っていたじゃないか。」

筋の通りそうで通らなそうな、自分でも何を言っているのか全く覚束ない訳の分らない様な事を、ぐたぐたと私はぼやいた。そして辿り着いた母の胸に倒れ込むと、私は如何やらそこでぐぅ…と眠り込んでしまった様だ。