誰もいなくなった裏庭の光景。私はその空虚な庭の光景を1人眺め遣った。庭には見る程の花も無いのだ。
『ああ、少し赤っぽく色付いた物が有る。花かな?。』
紅系の花々が私の目に映った。向こうの盛り土の方向で何箇所かに群れて点在している様子だ。何の花だろう?、私は思った。そこでおずおずと私は歩み出し、気持ちを落ち着けながらその植物に近付いて行った。
結局、近付いてみるとその燻んだ赤い色は花では無かった。
「葉だ。葉の先が赤っぽくなっている。」
何だろうこの葉は?と、私はひょっとその植物に心を留めた。今迄私が目にした様でしていなかった様な物だ。改めて関心を持って眺めて見る葉の形に色。「花じゃ無い様なのに先だけ赤い色だ。」どう見ても、やっぱはりこれは葉っぱだなと私は再度思った。何だろう?。不思議な草だと漠然と感じながら、私は暫く無言でそれを眺めていた。
その後ふと気付いた私は、上下左右とその植物を観察し始めた。普段の遊び場では見た事がない様な草だ。平たく丸く濃いめの緑をした葉っぱだ。私は未だこのドクダミという植物の名さえ知らなかった。よく見れば丸い様な変わった葉の形をしていた。私に取って馴染みのある遊び場、日向という場所に生える細く長い芝類の葉とは違う
「細く無いのだ。」
私達子供が、穂の付く茎を遊ぶ時に使う、オオバコの卵型の葉とも違う。
「丸いのに形が違うねぇ、ねぇ、君。」
私はそうブツリ、ブツリと呟き、語り掛けると、目の前のドクダミという植物の茎に手を伸ばした。プツ!。私は思い切って未知の草を手折り、その柔らかいぬるみを持った手触りの茎に思わずぶるっと来た。思い掛けずの薄気味悪さを感じて私は否応無く身震いしたのだ。しんとしてその場に佇む私に、気が付くと何処からとも無く臭気という物が漂って来る。
私は訳の分からないその場の大気の雰囲気を感じ取っていた。言えば私は何かがいる様な気配をその場に感じたのだ。その草に、葉の影に、いるのだろうか何かが?。私は未知の物への畏怖感を覚えると、この時、私が未だ聞いた事がない臭気という物を己が視界に捉えようとした。
私は自分が感じた違和感が臭いで有ると知るに連れて、漠然とだが、普段と違う事がその場に有る臭いだと気付くと、平時との違いがそれだとしか考え付かなかったのだから、私の思考はその場の臭気に原因究明を求める様自身の思考に指示したのだ。私はその何者か、自然に先天的に動物として備わっていた物の判断をこの時飲む事にした。
私はその香りの元となる物体、その物自体が漂っているらしい空間に、その存在物を探求し原因物質が何者なのかと、私自身の目に映る一点、その点であるだろうと私が考えていた物体を探していた。キョロキョロ、じいっと目の前の空間を私は見下ろし、また見上げてもいた。私はまた、その場の緑を見詰め、香りを発していると特定出来そうなそこ此処をジイっと見詰めてみる。が、その場には何も、何の姿も形も、影さえも、何かの色さえも、私にはその香りという物が取り分け強く漂う空間、その中心部辺りにも、全く何物も見出す事が出来なかったのだ。
私に取っての不思議な現象、自らの考えも及びも付かない物質、ある種の香りの揮発性。空間に素早く散じて行くタイプの香りに、私は自分自身では太刀打ち出来ない無力感を感じた。見えず知り得ない物、自分の敵の様な者に無抵抗でいる己のもどかしさを感じた。
『世の中には努力だけではどうにもなら無い物が有るのだ。』
自分自身だけでは到底解決出来無い事、不可能という物が有るのだと、私はこの時初めて知った気がしていた。