こんなのがあるのだと、パチリ。
ポストとあるだけに、ちゃんと郵便マークの付いた投函口があります。
可愛いですね。駅の待合室にありました。
こんなのがあるのだと、パチリ。
ポストとあるだけに、ちゃんと郵便マークの付いた投函口があります。
可愛いですね。駅の待合室にありました。
携帯電話が無かった時代の昭和生まれですから(笑い)。
小銭が無くなるとガチャンと切れてしまう切なさがありましたね。
3分で要件を早口で伝えるため、頭の中で整理しながら話しました。
要件を伝えたと思ったら、分からない所を相手に聞きなおされて、
また説明を頭の中でまとめて、早口で伝える。ガチャンが怖かったものです。
ちゃんと相手に要件が伝わって、少し間があるとじゃあね、とか分かったねとか、
話してプー・ガチャンを待ったものです。
初めにもプー音って入りましたよね。
「あなた、新婚旅行で会った外国の人に、飽きたらやるから隠れて見ていればいいさ、
って言ったんですって。」
その日帰宅した竹雄に、薫子は落ち付きながらも、ややきつめの声で真偽を問うのだった。
夫の方は薄い笑いを浮かべていたが、如何とも、否定も肯定もしなかった。
「如何なんです。」
更に彼女が問いただすと、彼は、
「人を好きになる気持ちが分からないの?」
僕には分るな、と言ったものだ。
それでは私は朴念仁だとでも言いたいのか、と薫子は思った。
自分の妻の傍に、妻に恋する男性を寄せて置くなんて、決して良い結果にはならない、
私ならそう思うと彼女は内心思った。
一体どういう人物なのだろう、竹雄という人物について、彼女はそれまで大目に見てきた彼への配慮を、
全く改めた方がよいと悟るのだった。
堅実で実直、節約家で質実剛健、夏に麦わら帽子1個で過ごす彼女にとって、
お洒落な帽子を買わなかったのかと言った夫。
彼にすると化粧っ気も無い気取らない彼女は、面白みのない女性だったのかもしれない。
贅沢にしていいと言っても、店で安価な物しか購入してこない彼女に、小馬鹿な目だけを向けていたのかも知れなかった。
家族の健康や家の貯蓄、堅実な将来設計を描く彼女に、堅苦しい思いだけを募らせていたのかもしれない竹雄。
彼女は本の4ヶ月程度の結婚生活だったが、自分の結婚が最初から破綻していた事に改めて思い至ると、
今更のように後悔の念を抱くのだった。
幼い頃に祖母に買ってもらった麦わら帽子に、素朴で質素なその容姿ではあるけれど、
自然で穏やかな影の効用を嬉しく感じ取った薫子。
灼熱の夏の日差しから、涼やかな陰で自分の身を守ってくれるありがたい連れ合い。
そんな麦わら帽子が気に入っていた彼女。
夫にはその良さが分からないのだ、素朴な麦わら帽子なのに。
彼女は次の日、今年の夏の始めに買った麦わら帽子を手に、山の端に登った。
足下の眼下は崖、その遥か下には静かに波が寄せては返していた。
夏の海は深い群青色で妥協を許さぬ濃さに染まっていた。
彼女が手にした麦わら帽子には、長い飾りリボンが付いていた。
彼女がこの帽子を選んだのは、このリボンの柄と色合い、風に靡く様が気に入ったからだった。
普段なら売れ残りの安物しか買わない彼女、今年は夫の資産で好きに買う事が出来た。
だから、麦わら帽子と雖も、何時もより高価な値で買った麦わら帽子だった。
そのせいか鍔が広く、何時もなら襟足迄しか無いひさしが、肩を覆うくらい迄に広々とあった。
その分影も大きく出来る。今夏の激しい日差しから、存分に彼女の体を守ってくれた。
彼女はこの今年の麦わら帽子が、今まで彼女が選んだ帽子の中で1番気に入っていた。
しかし、この帽子は自分のお金で買ったものでは無かった。
夫の収入で買ったものだと思うと、今までの常の外出のお伴という愛着が、すっかり嫌悪に変わった。
彼女は崖の上から海を見下ろすと、手に持っていた麦わら帽子を水平に吹いてくる風に載せて下へと投げやった。
海から吹いてくる風に煽られながら、帽子はくるくると舞い上がり、
一旦地上に戻りそうになりながら、それでもくるくると下へと降りて行った。
終り
2日程して、また隣の奥様が薫子に言った。
「お宅のご主人どういう人なんでしょうね。」
何でも、飽きたらやるから、付いて来て隠れて見ていればいいさ、と彼に言ったというのだ。
『家の主人が?』
薫子は彼がそんな事を言ったかどうか不審に思ったが、見合い結婚で交際期間が短かった事から、
竹雄の性格、人となりという物がまだよく分からないでいるという事実があった。
本当にそんな変な事を言ったのだろうか?彼は長く私と結婚生活を続ける気が無いのに結婚したのだろうか?
薫子にすると如何にも不思議な事態であった。お隣の奥様の言葉を鵜吞みに出来ない彼女だった。
また奥様はこんな話をした。
自分の出身地の近所に、やはり新婚旅行先で外国人の男性に見初められ、そのままついて来られた女性がいた。
その女性はその後夫と別れ、ついて来た外国人男性と結婚した。
2年程して近所の人がその女性を訪ねていくと、向こうで雲の上のような生活をしていたそうだ。と。
薫子が奥様の話に耳を傾けている内に、物語は段々と真実味を帯びてくるのだった。
非現実的な話と疑いながらも、薫子は、こんな事本当にあるのだろうかと半信半疑の気持ちで一杯になるのだった。
そしてその後、今日その外国人の青年が、到頭自分の目の前に立ちはだかるまで、
彼女は彼の事を特に気に留めないよう、素知らぬ顔で知らぬ存ぜぬを通してきたのだった。
何故なら、彼女の方は一度結婚したからには、自分の家庭をきちんと築き上げて行こう、
終生添い遂げようという気持ちで一杯だったからだった。
夫の真意は分からなかったが、彼女はせっせと自分の家庭を築き上げて行く努力をしていた。
彼女にとってこの外人男姓は迷惑そのものであり、文字通りの彼女の家庭の外の人であった。
『今日の午前中までは何事も無かったのに…。』
彼女はこの件について、夫と早急に話をせねばならないと決意するのだった。
思えば4か月ほどの間、ジープの中は元より、山道では山頂、草むらの中、畑の道では畑作業の人々に交じって、
何時しか髪の色を黒っぽく変え、ダークなTシャツと簡素なズボン、黒いサングラスという出で立ちになった彼。
そんな彼の視線を感じながら、彼女は外出中に目の端々に彼を捉えていた。
山道の草叢などでは、黒い頭、黒いシャツの一部、肩先など、緑に生い茂る草の中で見え隠れしていたものだ。
ここはかなり自然が残る山の中だった。実際に彼女自身、相当震え上がる様な長い動物も何度か目にしていた。
何がいるか、何が生えているか分からないような草叢に、じっと身を伏せる彼に、
草や木では無い彼女の心は、内心酷く同情してしまうのだった。
それでも、自分がそ知らぬ顔をしていれば、いつか彼も諦めて現れなくなるだろうと心の片隅で願っていた。
そう、今日の午前中までは…。
夢見がちな微笑みと、ほのぼのとした気持ちをきりっと引き締めながら、彼女は自宅の玄関に漸く辿り着いた。
あのジープ奥さんと一緒に来たのよ。
訂正するなら早い方がいい。
この言葉の意味は、既に薫子にも朧げに分かっていた。
あの外人男性にも、どうやら彼女は見覚えがあるのだ。何日か前の新婚旅行の度先で見たように思う。
夫と2人で渡航先の現地の土産物屋にいた時、品物を物色しながら彼女は夫から離れ、
1人で品物を見ながらあれこれといじり、ぽつぽつ独り言を言っていた。
そして振り向くと、彼女の後ろに背広姿で品の良い若い外国人の男性が立っていた。
最初彼女は外国人の少年かと思ったが、きちんとした背広姿、背筋のピンと伸びた身のこなしから、
そう背は高くないが成人男性なのだと感じた。
彼の顔には好意的な微笑みが浮かび、振り向いた彼女に何か語り掛けたそうな表情をしていた。
瞳の色は水色か緑色だったと思う。英語が苦手な彼女は何か話しかけられない内にと、
そそくさとその場を離れてしまったものだ。
『あの時の人だろうか。』
彼女はその時からここ迄、彼が自分の後について来たのだろうかと訝った。
その後の旅行の日程でも、彼女は自分の周囲に彼がいるなどとは全く気が付かなかったのだ。
『本当にあの時の外人さんなんだろうか?』
彼女にははっきりとした確信が無かった。
家の傍の道で、隣の奥様と外人男性を目撃した翌日、薫子は隣の奥様から、家の前でまた話しかけられた。
「貴族のお家柄だそうですよ、素晴らしいですね。」
やや頬を染めて笑顔で隣の奥様は薫子にそう言った。
薫子にすると、昨日2人の喧嘩を見た後だったので、この奥様の彼に対する好意的な発言が何だか腑に落ちなかった。
何故隣の奥様はこんな話ばかりを私にするのだろうか?
新婚ほやほやの人に、意味ありげに問いかけるような物言いをする。薫子には如何も引っかかるのだ。
薫子は自分自身がそんなにモテるタイプだとは思っていなかった。
もちろん相手は外人さんの事だ、好みは日本人とは違うのかもしれないけれど、それでも如何にも不思議だった。
外国の貴族の男性、彼女の後を追って来た。どうやら自分に恋をしているらしい。
乙女にすると夢物語のような設定だ。
降って湧いたようなメルヘンの世界が、尚更に彼女に猜疑心を呼び起こすのだった。
真偽を確かめるまでは迂闊な行動はしない方がよい、と彼女は思うのだった。