『何故ミルが?。』
何故今ドクターの胸の内にミルの顔が浮かんだのかしら?。と、シルは不思議に思いました。それに、彼の心の内にはシルが見た事もない地球人で、年配らしい男性の顔がもう1人浮かんだのです。マルの心情の複雑さを思うと、彼女は何となく2人の顔が気になります。
『ドクターの故郷の星での過去と、現在の目の前にある地球という星で、共通に関連する何かが有るのかもしれない。』
彼女はそう考えると、動かせない過去ではなく、これから変更できる未来に向けて、ドクターの心理的療養の解決策を見出せそうだと判断しました。『まぁ最初は過去の歴史を調査しましょう。』彼女はそう決断すると、マルに故郷の星での過去の出来事を尋ねるのでした。
マルは故郷の星ではこの様に目立つ外見で生まれたものですから、それだけで大変な目に遭ったのだろうと推察されます。しかし、生家の近隣の家々では皆生まれた時からのマルを見慣れていたので、彼に対して何思う所無く無頓着でした。そのお陰で小さな頃はそう違和感なく成長していたマルでした。また、傍には双子の弟のエンもいて、2人は外見が全く同じなのですから尚更です。エンの方も、初期学習に入る前は生来の身なりでいる事が多く、特に兄と違った外見を装う事も無く過ごしていました。問題は地域の学習機関に通うようになってから起き、それは大きくなったのでした。
初期学習の初日、心配性のエンはもう周りの子達と同じ外見にして通い出していました。それまでに遠出した場所で、彼等は奇異の目で見られた経験があったからでした。一方大らかなマルの方は他人の思惑に無頓着でした。『同年代の子供同士、仲良くなってきっと上手くやれるさ。』と、外見から仲間外れにされるのではないかと心配するエンの事を、それは思い過ごしだと笑っていたものです。
「学習施設では兄の私が側にいるんだ。もし何かあっても私がいるから大丈夫だよ。」
そんな事を言って、就学前の弟のエンの不安を取り除くように慰めていました。しかし、事実はエンの予想した通りでした。マルは同年代の子供達の好奇の目に晒されたのでした。
「今から思うと、弟の方が世間をよく知っていたんだなぁ。」
マルは遠い日を思う様に目を細めて呟きました。