こう松山君の意見を聞かされて、小手川君は内心思い当たる事がありました。
入社当時から、彼女が親切にしてくれるから自分に好意を持っていると思ったのですが、その後積極的に恋のアプローチが有る訳ではありませんでした。彼女がお嬢さんだから慎み深いのだろうと考えていましたが、案外松山君の言う通りで、課長にお対する彼女の出世欲、または恋心からの自分へのアプローチだったのか。小手川君はそう思うと、人付き合いや仕事に関しては結構なやり手だと自負していただけに、臍を噛むような思いにとらわれるのでした。
小手川君は暗い気持ちで沈み込むと、松山君に返す言葉も無いまま彼の目の前でうな垂れるのでした。そんな小手川君の様子に松山君は言いました。
「冗談だよ、本気にしたの?」
「えっ!」
「お前が本気かどうか試してみたんだよ、こんな話で俺の言う事を鵜呑みにするなんて、相当あの娘にお熱なんだな。」
小手川君は眉根に皺を寄せました。
「どういうこと何だい。」
「いやさ、さっきお前達二人がなんだかとてもいいムードで帰って来たから、一寸からかってみたんだよ。」
『人の悪い奴。』小手川君は嫌な顔をして松山君の顔を見上げながら思いました。