Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華4 17

2021-12-17 11:17:47 | 日記

 「そうだよ、時計の針を見てご覧。」

『こんな小さい子に本当に時計の針が読めるもんか。』内心きっと目尻を上げて、彼女は猜疑心を含む目付きで自分の子と同い年の訪問者を見下した。それから、彼女はさっと玄関正面に掛けられた時計の下迄進むと、自分の正面、今しも眼下になった小さな訪問者の顔に悠然と笑って言った。

「お八つの時間だろう。」

 さて、彼女と玄関の子供の母親は、普段から同い年の子を持つ母親同士、よく自分の子供の成長具合についてお喋りしていた物だ。家の子はあれが出来る、またはこれが出来る様になった。家もよ、または、え、まぁもう、等言い合えば、別の日には、そんな事がね、家はサッパリ。困ったものね、家の子には、等言ったりする。ある時はいいわねぇと相手を持て囃し、自分の表面を取り繕いながら、その実内心では密かに嫉んだりしていた。この様に双方共感を持って和やかに話す場合もあれば、時には一方が自慢気に高笑い、一方が心ならぬ追従笑いに甘んじたりする。親同士が切磋琢磨、子を持つ親の世の常の習いであった。

 そんなご近所の、子を持つ主婦連が集う恒例の井戸端会議の席上で、つい数日前の事だ、この彼女の家の玄関に今正に来ている子の母親は、同じく子持ちの主婦達を前にこう公言した物だ。

「家の智はもう時計が読めるんだ。」

へー、ほーと、一様に響めきが揚がった。

 『まさかね』、彼女達、その時その場にいた主婦連は皆思った。いくら何でも早過ぎるだろう。眉唾。言うに事欠いて。何かの思い違いだろう。三者三様にこの様に思った。智というこの子の母親の言葉を他の母親達は全く信じなかったのだ。

 「そんなの、小学校に上がっている子だって、未だ出来て無い子がいるっていう話だよ。」

陰でひっそり、ある年嵩の子を上に持つ母親が、他の母親達に言った物だ。また、他の彼女達の主婦仲間の1人はこうも言った。「眉唾眉唾、大風呂敷。あそこの嫁さんも案外言うもんだねぇ。」と。


うの華4 16

2021-12-13 10:45:47 | 日記

 「そうだよ、お八つの時間だ。」

そうだよ、その手があったんだよ。と、おばさんは顔を明るくすると背筋を伸ばし、思わず彼女の手を打った。如何にも妙案という風情である。おばさんは笑顔になると私に向き直り立ち上がった。

 少し前、この家の主婦である彼女はこう考えたのだ。如何してこんな暗い時間にこの子はやって来たのだろう。これが日中のことなら、全然問題ないのに。家の子だって喜んで遊ぶ時間だろうに。

『家もとんだ疫病神に取り憑かれたもんだ。』

彼女は俯いた儘溜息を吐いた。そうして階段にいた彼女は腰を踏み板に落とした儘、身を捩らせて店内の時計の針を見た。『一体今何時なんだろう?。』。玄関正面の壁に掛けられた白く丸い枠、モダンなこの家の掛け時計の時刻を見て、現在時を理解した彼女は思った。やっぱりね!。

 はぁぁと彼女は再び溜息を吐いた。これが真昼なら問題無い時間なのに…。「昼はいいよ。」彼女は言った。同い年の子を持つ親のことだ、こっちだって少しは考えようというものだ。「でも、こんな丑三つ時に…」、彼女はもう一度時計の針を見直して確認した。でも無いのか、もう少し早ければ昼のお八つと言えたのに…。「残念だね、少し回り過ぎた時間だよ。」

 それから、途方に暮れていた彼女はややあって考え直した。『でも、こんな小さい子の事だ、お八つの時間だと言って誤魔化せば、その儘自分の家に帰せるかもしれない。』

 「そうだよ、智ちゃん、お八つの時間だよ。」

私が見詰める彼女の笑顔はにこやかで普段通りだ。彼女は私に向けて言った。

「智ちゃん、もう帰らなくちゃ。」

お八つの時間だよ。もう直にお八つになるんだ。家に帰らないと。彼女は私に向け身を屈めるようにしてハイハイという様に彼女の手を打つと、明るく私の帰宅を促した。「家でお母さんが待っているよ。」

 お八つ?。昼寝から起きて遊びに行って来まーすと、元気よく家の人に言ってから外に出てそう間が無いのに?。そう思うと私にはこのおばさんの言葉は合点が行かず、ええっ?と首を傾げるくらいに腑に落ち無い物だった。その不思議さに一時キョトンとして玄関に立ち竦んでいた私だったが、本当だろうかと半信半疑、清ちゃんのおばさんの顔付きを、目を見開いて見詰めてしまう私だった。


うの華4 15

2021-12-13 09:52:01 | 日記

 その途端、ハッとした様に階段にいた彼女は身を起こした。彼女は振り返ると階上に向かって身を伸ばし、2階にいる彼女の夫に向けて声を掛けた。

「向こうさんに電話して。先方から引き取りに来る様に言って。」

 私は仕事の話だと思った。この家の商売の或事を、清ちゃんの家のおばさんは思い出したのだ。それで2階にいる清ちゃんのおじさんに仕事先の先方に電話しろと言ったのだ。私はそう解釈した。

 「これ以上は預かれないって。」

「そうそう毎回送って行くのも…、」ここでおばさんは言い淀んだ。俯いて彼女は考え込んでいたが、抱えても、抱っこしても…、重くて。もう私の方では、家の方では手に負えないって言っておくれ。「事情は分かるけどね。と。」そう言ってくれ、と、階段に佇んだ儘でやや腰を折った姿勢のおばさんは2階に向けて言い放った。『おばさん、何だかご機嫌斜めの様子だ。』私は思った。

 2階からはおじさんらしい声が言葉を返していたが、私にはその内容は聞き取れなかった。が、その後、おばさんの言い分が通った様子だと私には判じられた。彼女の安堵した雰囲気が階段に感じられたからだ。しかしその後はまたおばさんの元気が無くなった。彼女は再び私の方から見ると彼女の顔と体が横になる様にして自分の身を階段に寄り沿わせた。そんな彼女の様子を見て、私も再び彼女に励ましの声掛けをしようと思い始めた。

 『何と言ったら良いだろうか?。』私は思案していた。首を傾げ、脚先を交互にくねらせたりして、私はあれこれと考えを巡らしてみる。両手を顎に添えたりもして、私は何度かおばさんを眺め遣ってみる。そんな私の気配は階段にいるおばさんにも伝わっている様子だった。

 時が長く過ぎた様に感じた。が、依然私は彼女に掛ける言葉が浮かばず思案投首状態だった。真っ白な頭を抱え込んで清ちゃんの家の玄関に佇んだ儘となっていた。その時、

「お八つの時間…。」

そんなおばさんの声がした。様に私は思った。私がおばさんの方を見ると、彼女の顔は私に向けられていた。そんな彼女の顔に、「おや、つ?。」半信半疑、私はおばさんの顔を見詰め小さく問い掛けてみた。