Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

マルのじれんま 4

2020-03-30 15:39:44 | 日記

 実は弟は既に結婚していてね。彼の5番目の子がやはり私と似た容姿で生まれたというのだよ。如何やら中身もそうらしいという弟の話でね、その子が未だ小さい内に私に引き取ってもらえないかと、彼は言うんだよ。

 ここでマルは本当に困り切った顔をすると、沈み込んだ雰囲気になりました。ミルの目に入って来る、ドクターのオーラの色や翳り具合もそれを物語っています。そこで、ミルは彼を励まそうと快活に言いました。

「いいじゃないですか、この船に引き取ればよいですよ。」

 ここならドクターの看るお子さんは、艦隊の家族待遇でいられるでしょう。それにここは子供が育つ環境にも適している。家族連れのクルーは多いですからね。友達も沢山できますよ。弟さんのお子さんにとっても、こちらの方が返って過ごしやすいのではないですか。

 にこやかに自分に向かって話すミルの顔を見詰め、彼の話に耳を傾けていたらしいドクター・マルでしたが、彼の顔は元気を出すどころか寄り一層困った表情を深め、両眉を渋く寄せるのでした。

「いや、そういう訳には行かないよ。」

「他人事だと思って…。私は本当に困っているんだよ!。」

遂にドクターは怒ってしまいました。もう君に相談したのが間違いだった、そう言うと、

「僕は君の相談にはちゃんと乗って良い様にしてあげたのに。」

そう口早にドクターは口を滑らせると、もう出て行ってくれと、自分のボックスから早々にミルを追い出してしまいました。

 『一体何だというのだ。』人が親切に相談に乗っていれば急に怒り出して…。船の通路を歩きながら、ミルの方も少なからず気分を害していました。

「副長のチルに相談してみるかな。」

船に戻ってからチルに会っていなかったミルは、休暇明けの挨拶がてら副長のチルの部屋へと向かう事にしました。ミルは既にバツ艦長に休暇明けの挨拶を終えていました。『今のドクター・マル氏の話は明日の勤務の時にでも艦長に話すか、又は副長のチルの方から艦長に報告してもらうかだな。』彼はそんな事を考えて連絡シャフトの扉の前に来ました。


マルのじれんま 3

2020-03-30 14:50:55 | 日記

 2人の会話が弾む中、

「失礼します。」

医療室の介護スタッフ、若い男性がマルの個人ボックスへと入って来ました。

「エン・マン・ソウダネと仰る方がご面会です。」

えっ!とマルは驚いて椅子から飛び上がりました。そして今は困るよと、介護スタッフの男性に渋い顔をして見せるのでした。

「しゅ、手術中だ。」

そうとでも言っておいておくれ、と、マルは彼にそう指示すると急にそわそわし出したのです。

 「困ったなぁ…。」介護の男性が彼のボックスから出て行くと、マルはミルの目の前で途方に暮れるのでした。

「如何したんですか?お邪魔なら私は出て行きますよ。」

ミルは気を利かせてドクターに笑顔で声を掛けました。

「いや、」

ドクターは、ミルに君のせいじゃないんだと言うと、実はね、今私を訪ねて来たのは弟でねと話し出しました。

 マルのフルネームはマル・マン・ソウダネといいます。故郷の星はこの宇宙では可なりの辺境星団にあり。マルの故郷の星から宇宙艦隊に入った者は殆ど無く、ミルに限らずこの宇宙船の誰もがマルの同星人を見た事が無いのでした。ですから、皆マルの同郷の星人は、誰もがマルと似たり寄ったりの外見をしていると考えていました。

 が、驚いた事に、実はマル自身の方が同星人からはずば抜けていて、外見もそうなら健康状態や精神状態、知能指数など、あらゆる面で比べようもない特異な体質なのでした。そんな彼は故郷で基礎教育を終えると、待ちかねた様に直ぐに宇宙へと飛び出し、自活しながら興味を持った医療への道に進み、ドクターとなってからは艦隊に入り、今やこの船のドクター主任に迄なっていたのでした。

 「私の様なタイプは故郷の星では異質でね。」

自分の身の上話を終えたドクターは、溜息を吐きながらミルに告白しました。

「私は星にいるのが嫌で嫌で仕様が無かったものだ。」

向こうもそうなのだ。皆、何でもできる私と共にいるのが嫌だったらしいんだ。そう彼はミルに言うと、

「だから分からないでは無いのだがねぇ…。」

と、弟が自分を尋ねて来た核心について触れ出しました。


今日の思い出を振り返って見る

2020-03-30 14:46:07 | 日記
 
親交 24

 「さて、シルの事より初子さんの事だ。」宇宙船の通路で、現在のミルはにこりと笑いました。彼は窓外に映る青い星を見詰めていました。その清涼な紺と青、そして動的な白のコントラストに......
 

 3月もあと明日1日。この調子では、4月はどうなるのでしょうか。

 


昨日の思い出を振り返ってみる

2020-03-30 13:06:13 | 日記
 
親交 23

 『1人に対して集団で、何て稚拙な奴らなんだ!』それまでの彼は、勿論、同年代のクラスメート達皆にレポートで負けたという事に劣等感を感じ、暗い気分で鬱々と滅入っていました。しかし......
 

 午後からは良いお天気のようです。昨日分アップしました。

志村けんさんの訃報に驚きました。持病が無いという事や、まだ70歳という年齢で他界という事にも。何だか他人ごとでは無く、寄る年波を感じる気がしました。無理は出来ませんね。


マルのじれんま 2

2020-03-25 16:01:29 | 日記

 「まぁ、この話は追々するとして、君は紫苑さんという地球人の男性の事が気に掛かっているんだろう?。」

つるつるとした頭に手をやりながら、恥ずかしそうに頬など染めて、ドクター・マルはミルに向かって言うのでした。「その話から先に進めようじゃないか。」

 それはミルが故郷の星に帰る前、休暇に入る前の出来事でした。ミルは任務で降り立っていた地球上で、彼の任務とは全く関係の無い人物、或る1人の地球人男性と親交を深めることになったのでした。その男性の名前が紫苑さんというのでした。ところが、ミルは急に休暇を取る事になり、当然親交を深めつつあった地球人男性の事が気掛かりとなったのです。また、紫苑さんは奥さんを失くして独り身、世間とも付き合いの無い孤独な初老の男性でしたから尚更でした。彼は紫苑さんの身の上を案じていたのです。

 そこで、ミルは帰郷する前に、常日頃彼が信頼を置いていた宇宙船の医師であるドクター・マル氏に、彼の留守中、紫苑さんなる人物の面倒をお願いしておいたのでした。ミルは前以て、ドクターに紫苑さんの現状を子細に話してありました。

 「君の言う通りだね。彼には精神的なケアが重要だったよ。」

こう言うと、マルは言葉を続けました。

彼は人付き合いが全然出来ない人物だね、堅物というか。私の知人にも過去にああいう人物が何人かいたが、皆早死にしてね。…。マルの話を聞きながら、ミルは苦笑いを浮かべました。

 「知に働けばでしょう、」

とミル。

「おや、そんな地球の言葉を知っているのかい。」

とドクターが驚けば、ミルもドクター、知っているんですか?と、驚きました。

「素早いですね、僕が休暇に入ってから…。」

ミルは自身の休暇の時間をこの惑星の経過時間に換算するのでした。地球上ではほんの1月程でした。

「1月もあれば十分だよ。」

事も無げにマルはミルに言ってのけるのでした。

 船での医療の傍ら、マルは興味に任せ地球上の至る所の文献を読み継いでいました。ミルに頼まれてからは、紫苑さんの居住地域である地球上の日本について、関連文献を読み漁り、歴史や文化は勿論、その言語の成り立ちや熟語成語、諺に至るまで一晩で看破していたのでした。

 なかなか興味深い種族だね、日本人は。特に「竹取物語」は良かった。月と地球の異種族間の相違など、この星での古典という物なのに、現代の星間での異種族間の相違、交流の縮図を見る思いだったよ。マルは顎に手を遣り、嬉しそうにその瞳をアップルグリーン色に輝かせるのでした。