Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

ダリアの花、112

2017-03-31 22:25:49 | 日記

 丁度座敷の入り口に蛍さんの父は立っていました。

「あっ、つかぬ事を伺いますが、」

彼は話しかけました。お宅の娘さんの蛍さんは何処に行かれましたか?そう聞いてみました。

「え、蛍ですか、家で寝てるんじゃないですかね。」

そう彼女の父は答えます。まだ眠い時期みたいですから、そうでしょう。

推量する様にそんなことを言ってにこやかに彼に応対してくれます。

  『やはり、女の子の方はいるんだな。』

と彼は思いました。そして、孫の光君についても尋ねてみようと思います。

「私の孫の光を見ませんでしたかね。」

ここで蛍さんの父は一瞬眉をしかめました。

「光君なら、本堂の入り口におられましたよ。未だおられるんじゃないですかな。」

そうか、私と入れ違いになったんだな。これで分かった。どうやら担がれたのは私の方だったんだと、彼は苦笑いして、

これはどうも、ちっとも気が付きませんでと、挨拶して本堂に戻って行こうとします。

その彼の背に、蛍さんの父は妹をよろしくお願いしますと愛想よく声を掛けるのでした。

ああ、ええ、と、彼も愛想よく返事をして、光君の祖父は本堂の入り口に戻ってきました。

  しかし、そこにいるのはやはり息子1人だけです。

息子は待っていた父が戻ってきたので、笑顔でさあ帰ろうと声をかけます。

「折角の素麺が延びてしまうよ、父さんの好物なのに。」

  さて、ここまで来ても、父にはどうも釈然としません。確かに「ひかり」と「ひかる」は似ているけれどと、また息子にあれこれと言われるかもしれないがと思いながら、

「なぁ、孫の光の事だけど、」

と言ってみます。

本当はいるんだろう、私と入れ違いにもう家に帰ったのかい、そう聞いてみました。

  息子の方は流石にムッとした感じになりました。

いい加減にしてくれよ父さん、呆けたふりかい、今朝まで何ともなかったというのに、急に呆ける訳無いだろう。

ふざけるのもいい加減にしてくれないと怒るよ、と仏頂面をして文句を言います。

 父息子で居る居ないのそんなやり取りをして、お互いに何だか険悪な雰囲気になったところへ、お寺の山門から女の人が入ってきました。

直ぐに入り口にいる2人を見つけて声をかけました。

「あなた、お父さん、お母さんがお待ちですよ、早く帰ってくださいね。」

その声に光さんは振り返ると、笑って手を振り返事を返します。

「ああ、澄さん。分かったよ、今帰るからね。」

  そして彼は、再び振り返って父に向き直ると、さぁ、父さん、母さんがお待ちかねだ、さっさと帰ろうよ。と、帰宅を促すのでした。


ダリアの花、111

2017-03-31 13:42:19 | 日記

 祖父は驚きました。

「光だよ、お前にすると甥になるだろう、お前の妹の子だからな。」

そう祖父が言うと、今度は息子の光さんが驚きました。信じられないという感じです。大きく目を見開いて父の様子を窺ってみます。

「如何したんだい、知らない訳ないだろう、お前の甥で私の孫の男の子だよ。小学生になる。」

そう祖父が真顔で言うものですから、息子は酷くショックを受けたようでした。

「父さん、それで、妹が男の子を生んだと言うんだね。」

当たり前のようにそうだと言う父に、息子は顔をしかめて言います。

「父さん、妹ならもう随分と前に死んだじゃないか。」

えっと驚く父。思わず何時の事かと息子に聞くと、

「僕が小学生で妹がまだほんの幼少の頃だよ。」

と光さんは答えます。そして、確りしてよ父さん、まだ呆ける歳でもあるまいに、と、ハハハと笑います。

 「いやしかし、孫の光は今までここに居たんだよ、あの子が好きだという蛍という女の子と共に。」

そう父が言うと、光さんはちょっと片眉を上げて、蛍?と訊き返しました。

「蛍と言えば家の子じゃないか、父さんの初孫だろ。僕の長女だよ、今年生まれただろう。」

それも忘れたのかい。まさかね、父さんも冗談がうまいなぁ、もう少しで担がれるところだったよと、

『その手はくわなの焼きハマグリ』だなどと言って、光さんは愉快そうにくっくっくと笑うのでした。

 何だか妙な事になったと祖父は思います。

しかし、念のためもう1度本堂を見回しても、光君はおろか蛍さんも何処にも見当たりません。

蛍さんの父も、とうに奥の座敷に行ってしまい、事実の有無を確かめる事も直ぐにはできないのでした。

彼は仕方が無く、ここは息子の光さんに調子を合わせて、いやあバレたかなとにこやかに笑って見せます。

そして、蛍さんの父が消えた奥の座敷に行って事の真偽を確かめて来ようと思います。

「おまえ、先に帰ってくれないか」

私は住職さんに一言挨拶してから帰るからと彼が言うと、

「母さんから必ず父さんを一緒に連れて帰るように言われてるから。」

と、光さんはここで待っていると言い、早く挨拶して来てくれと、本堂の入り口の敷居の上に腰をかけて、

のんびり父を待つ気配です。ではと、彼は急いで蛍さんの父の後を追い奥の座敷に向かいました。


全体的に何でも値上がりしていますね

2017-03-31 12:38:52 | 日記

 特にどれが値上がりしてショックという事も無いのですが、買い物をしていて食料品が全体的に値上がりしているのを強く感じます。

以前198円だったものは298円に、98円だったものは120円にという具合です。

『前は安かったなぁ』

と思うと、あの頃が懐かしくなります。

当然、品物を買ったトータルは大きな出費になります。

あという間に5千円、1万円と大台に乗り、月の経費も膨らんでしまいます。

 他に目につくのがガソリン代。1リットル100円以下の時もあったのに、今は130円台、120円台と大幅増えています。

都会では自動車は贅沢品でも、地方では通勤などの必需品です。目に見えて嵩む交通費の出費に、がっくりしているのは私だけではないと思います。


ダリアの花、110

2017-03-30 19:00:26 | 日記

 声を聞いて祖父が振り返ると、逆光で顔はよく分かりませんでしたが、入り口に来たのは家の者だなと感じました。

誰だろうとよくよく見ると、何だか見覚えがあるのですが誰だか思い出せません。

親戚の子かなと、入り口に近付いて行ってハッとします。祖父にはその若い男性が誰か朧気に分かるのです。

「お前、光(ひかる)か?」

祖父は亡くなった息子の名を言います。

「何だい父さん、改まって、」

そう言って、その男の人は首を回して周囲の光の加減を眺めてみます。

 「逆光で僕の顔がよく見えなかったのかい?」

嫌だなぁ、父さん、声で分かるだろう。そう快活に男の人は言ってハハハと歯切れよく笑うのでした

祖父はその笑い方も息子の物だと、この若い男性の事を再確認するのでした。そして内心ほっとするのでした。

 『やはり息子だ。光は生きていたんだ。』

私は長い夢を見ていたんだろうか、白昼夢というやつなんだろうな。こんな事初めての経験だと、

これも寄せて来る年波のせいかと、彼は人の一生について感慨深く思いました。

 「ああ、直ぐに誰か分からなかったんだよ。声もよく聞こえなかったんだ。分かったよ、もう帰るから。」

そう祖父は自分の息子に言って、本堂の廊下に顔を向けると、

「では、今日はこの辺でお開きですな。」

と、そこに居た蛍さんの父に言います。

蛍さんの父も、では、また次の機会に話の続きをお願いしますとにこやかに別れの挨拶をしました。

 そこで祖父は孫の光君を呼ぼうとして、彼が今まで座っていた場所に目をやりますが、

そこに光君の姿はありませんでした。

おや、何処へ行ったんだろう、荷物でも取りに行ったのかな。そう思って本堂の奥に向かって、

「光(ひかり)、何処だい、帰るよ」

と、声をかけます。光、光、繰り返し読んでもどこからも返事は返ってきません。

変だな、何時も直ぐに返事をする子なのに、そう思って本堂の奥に孫を探しに行こうとすると、彼の背をトントンと叩いて、

「父さん、誰だい、光って、僕と似た名前のやつがいるのかい。」

そう息子が面白そうに背後から声をかけました。


ダリアの花、109

2017-03-30 18:24:04 | 日記

 「まぁ、呼び名なんかどうでもいいじゃないか。」

見かねた蛍さんの父が2人に言います。

その内なんでも呼び合うようになるだろうし。と、自分と妻の事を思います。

蛍さんの両親はおい、お前、あんた、など適当に呼び合ったまま、過去から今まで進展がありません。

『俺達だってそうなんだから、如何だっていいんじゃないか。』

と父は内心思います。

 「いや、こういうことは最初に決めておかないと後を引きましてね、」

名前を呼べずにおい、おまえ、あなたになってしまうものですから。と、光君の祖父は意見を言います。

「光、学生時代になれば光君という者もきっと現れて来るだろうから、今から慣れて置いてもいいじゃないか。」

向こうさんはお嬢さんなんだから、そう呼んでもらいなさい。名前で呼ばれたいだろう、光は。

呼び方を決めておかないと、将来もおい、お前になってしまうよ。

と注意します。そうだね、それならと光君は、光君でもいいよと祖父の意見を笑顔で承諾しました。

 そこで祖父は蛍さんに、

「家の方には、『ちゃん』と呼ぶ子がいなくてね、光は言いづらいんだよ。君というのと同じように蛍さんでどうだい。」

折れてくれないかなぁと頼んでみます。

蛍さんも向こうのお祖父さんに下手に出られ、丁寧に頼まれるのですから、にこやかにそれでいいですと了解しました。

 『蛍さんか、蛍でいいのに。』

光君は内心むかむかしていましたが、表面はにこやかで笑顔でした。そんな孫のにこにこ顔を見ていて、

祖父はどうやら孫はこの件で胸に一物持ったなと感じます。

蛍さんの方を見ると、一応満足気にほっとした表情を浮かべています。

『家の子の方が折れた形だな、ここは1本貸しだな。』

と、祖父は胸残用をします。後から何かで返してもらおう。フィフティフィフティだなと思います。

 と、ここまで話が来たところで、本堂の入り口に男の人が現れて声をかけました。

「お昼が出来たよ。早く帰って来ないと延びてしまうよ。」