Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 137

2021-03-31 11:31:38 | 日記
 四郎は自分の身近で、彼に頼る様に寄り添い、おずおずと佇んでいるこの子の言葉に気持ちが揺らいでいた。

『確かに母の言う通り、あれは間が悪い所があるからなぁ。』

と、内心不安が頭を擡げて来る。う、うんと、彼は言い淀んだ。が、ここまで事を荒立てて来た手前、後にも先にも引けない自分の身を感じるのだった。結局彼は、最終的にまぁいいさと口にした。

 「本当にいいんですか。」

彼の義姉がにこやかに余裕のある言葉を発すると、自分の明るい笑顔を彼に向けた。彼女は男性側の今の遣り取りで、劣勢だった自分や自分の娘の立場が好転しそうだという気配を俊敏に感じ取ったのだった。彼女は喜びで思わず口元が綻んでしまう。

 方や四郎の母、彼女の方は反対に顔を曇らせて俯いた。またこの子の早とちりかと思うと、嫁の前でこれから先、自分は自分の息子が暗転する逆転劇を見るのだと、彼女にはこの先のこの場の場面展開が予想されて来っる。すると彼女は、この恥ずかしい息子、四郎を育てた親は誰?、というと、自分だと、自問自答して返ってくる答えに、彼女は否応なく身に迫る母の責任というものをひしひしと感じ取った。

 彼女はこの先、自分はこの嫁と同じ子の親という立場で、彼女に非常に恥ずかしく身の細るような思いをしなければならないのだ、と感じた。そう思うと彼女は姑という立場で嫁の真面に立ち、その胸中は如何ばかりかという場面となった。「まぁいいさ、男に二言は無い。」、思い切りよく、再び彼女の息子の四郎は言った。

 …。まぁまぁ…。ほほほほほ。と、暫くして、自分の娘達の遣り取りに得心して、事を整理した彼女等の母である嫁は言った。

「それでは、あの子が先に手を出したのね。」

明朗な嫁の声だった。

 「それは違うと思うけど。」

透かさず叔父四郎の側に寄り添った子の方が言った。「智ちゃんは避けただけだよ。手なんか出してない。」と、子は血の繋がらない、姻族上の伯母に文句を言う様に言った。「手を出さずに、自分は階段に顔を打つけただけなんだよ、智ちゃんは!。」。「それもこれも、あの子は態と避けたんです。」、嫁も負けてはいない。「性質の悪い子なんですよ、あの智ちゃんっていう子は。」。

 伯母から反撃された子は驚いた。ええっとばかりに声を上げると、智ちゃんが、態と。智ちゃんが、…態と?と、考え込むと、幼子は半信半疑の体となった。

うの華3 136

2021-03-31 09:53:22 | 日記
 「お母さん、申し訳ありません。」

嫁は先ず横にいた姑に謝ると、四郎さん申し訳ないと、その時廊下から座敷に入る縁側に立っていた、義弟にも詫びの言葉を口にするのだった。「僕達も見てたの、そう。」と、血の繋がらない甥達にも嫁は言葉を掛けた。だが部の悪い立場では、普段雄弁な彼女もそう大した会話は出来ずに言葉少なだった。

 「皆んな驚いたわねぇ、こんな乱暴なお姉さんでは。」

嫁が寂しげに口にすると、子供等の祖母である彼女は、「でもねぇ皆んな、知っているでしょう。このお姉ちゃんは普段はとてもいい子なのよ。」と嫁に口添し、孫娘を弁護した。「如何したのかしら、こんないい子が、」彼女が不思議そうに呟くと、「本当に、何かあったのかい?。」と、嫁も自分の娘に穏やかな声を掛けてみるのだった。

 あの子が。あの子って?。「智ちゃんかい?。」。孫娘や嫁の言葉に続けて、こう訊いたのは彼女だった。何の孫についても把握している彼女は、多分、事、この起こりは一方だけの落ち度では無いだろうと踏んでいた。

「お義母さん、何かご存知なんですね。」

嫁も胸に思う所が有った。あの子間が悪そうですからね。そう言う嫁の言葉に、ええねぇと彼女は相槌を打った。「あの子のは態とじゃ無いのよ。」。

 そこで彼女達2人は、娘達の言い分も聞こうじゃないか、と、その場にいた男性陣に持ち掛けた。今は昔と違って封建時代じゃ無いだろう。男女平等、それが公平で民主的というものなんだろう。と、彼女が言えば、嫁もええと控えめに頷いた。

 「封建時代とは、恐れ入ったな。何時の時代だい。」

彼女の息子の四郎が言った。お母さんの時代でさえ、もうそうじゃ無かったろうに。そう言うと進歩的な彼は、自分の子供の事で頑なになっていた気持ちが動いた様に見えた。

 いいだろう、何が有ってもこちらの優勢は変わらないだろうからね。と、彼は甥達にも同意を求める様目配せした。

「でも、もしかすると、」

叔父四郎の側、子供2人の内、歳下の子の方が何か言い掛けたが、「しぃ、お前は黙っているんだ。」と素早く兄に制された。でも、でも、と、言いかけた子はやや狼狽えた。彼等の叔父の方は何だと言うと、子供達のこの遣り取りが解せない様子になった。

「叔父さん、最初から見てなかったから。」

止めろ、止すんだ。と歳上の子が制するのを振り切る様にして、やはり言った方が叔父さんの為だからと言うと、歳若の子はこう口にした。

「叔父さん途中から、智ちゃんが階段に打つかった、一寸前からしか、見てないでしょう。」

「それでもいいのかどうか、私何だか心配で。」と、幼い子供は言うのだ。叔父さんの事が心配なんだ。本当に智ちゃんだけの味方をしていていいの?。と子供に念を押す様に訊かれて、叔父四郎の胸には一抹の不安が過った。

今日の思い出を振り返ってみる

2021-03-31 08:34:15 | 日記

マルのじれんま 4

 実は弟は既に結婚していてね。彼の5番目の子がやはり私と似た容姿で生まれたというのだよ。如何やら中身もそうらしいという弟の話でね、その子が未だ小さい内に私に引き取ってもらえないかと......

    良いお天気です。桜も咲き揃って来たようです。車窓からピンクに煙って来た木々を眺めてきました。
    今の時期、花粉に黄砂と、外出を控えたい時期ですが、良い天気に誘われます。コロナの感染拡大も心配です。本当に車は便利です。

うの華3 135

2021-03-29 11:56:03 | 日記
 お前何か言ってたよ。譫言みたいに。ブツブツ…。祖母は沈んだ様子と口調でそこ迄言っていたが、ふいと顔を上げ、

「その前は、何か叫んでたしね。」

と、ふふっと微笑むと、ここで祖母は一寸お茶目な口調で私にこう言った。そんな彼女はというと、きちんと畳に正座しており、如何にも長くその場所、その空間にどっかりと腰を落ち着けていたという風に見えた。

 「お祖母ちゃん、何時来たの?。」

廊下じゃなかったのかと、私の方にすると然も不思議そうに祖母の目を見詰めてこう尋ねた。すると、彼女は無言で私の目から自分の視線を逸らし始めた。恥ずかしそうにジリジリと、祖母の私に向けていた正面も次第に横へとずらせて行くのだ。そうして祖母の体が私の正面からやや斜めの向きに迄なると、彼女の顔も斜めに向いてまた俯き加減となっていた。

 「少し前だよ。」

俯きながら彼女は、ボソリとした声で私に答えた。祖母は私から顔を背けていたが、上目遣いでチロチロと私に視線を向けている様に私には見てとれた。『何だろうか?』。祖母の様子もそうだが、私自身も時折頭がクラクラと来る。その都度視界も暗くなり、私は闇の中、見通しが効かなくなるもどかしさを感じるのだった。

 お前、祖母は口を開き掛けたが、言い淀んでいる様子だ。お前、また彼女は言葉が途切れた。私は自分の目の焦点を彼女に合わせようと、せっせと努力していた。

 「お前、目がおかしくなっているよ。」

何回目かに、彼女は渋々という様な口調でこの言葉を自分の口にした。えっ?、私は直ぐには彼女の言葉が理解出来無なかった。『可笑しい?私の目が?』、当然、私にすると毛頭だ、決して面白い顔をしているつもりはなかった。そこで盛んに首を傾げてみるが、私にはさっぱり祖母の言いたい事は分からなかった。可笑しいって?、どんな目かと聞いてみる。と、祖母は私に自分の目で以て寄り目をして見せてくれる。

「この目と反対だよ。」

そう言って彼女は「お祖母ちゃんにはそんな目難しくて出来無いからね。」と言うのだが、私にするとこの祖母の反応で、謎は益々深まるばかりとなった。

 さて、時は少し戻って、ここは廊下である。彼女は彼女の長男の嫁と話をしていた。嫁の方は自分の子供の取った行動について、夫の弟である義弟、四郎と、やはり夫のもう1人の義弟、三郎の子等である甥等に、この家で姑等と同居している四郎の子に対して、彼女の子で有る娘の取った行動について、彼女に親としての責任を取り謝罪する様求められていた。

 そうしてその後、彼等は彼等の母であり祖母でもある彼女と、義姉であり伯母である彼女の長男の嫁の目の前で、彼等の目撃した長男の子の取った言動を再現して見せた。すると、流石に気丈夫な嫁の方でもその光景にばつの悪い思いを隠せないでいた。彼女は思わずばんと彼女の娘の頬を打った。娘は打たれた反動でその場から段差のあった台所の床へと落ち込み、その場にドサリと倒れ込んだ。

 ここで、打たれて倒れた女の子の祖母でもある彼女は、女の子に乱暴なと言うと、姉さん止しなさいと長男の嫁に窘めの言葉を掛けたが、その後、嫁の娘、彼女の孫に当たる女の子にこの人呼ばわりされた。こうなると彼女もまぁとばかり、衝撃と驚きを顔に隠せない。嫁の方も狼狽えた。自分の娘の度重なる暴挙に、如何この後の始末を付けたものかと言葉少なで思案挙げ首という風情で有る。彼女にしても直ぐに取り成す言葉が無い。自分の孫に当たる娘の事、これ以上事態が悪化しない様にと只々願うばかりであった。彼女は目の前の長男の嫁を見守った。彼女は自分が見込んだ嫁の如才の無い采配に期待を掛けていた。

うの華3 134

2021-03-26 10:08:10 | 日記
 実際、先程迄、私の指は私の意思通りに動いていたのだ。

『冷たい指でも、ちゃんと動いていたじゃ無いか。』

そう思うと、私は妙な緊迫感を感じてドギマギした。その奇妙な緊迫感は不安となり恐れと化すと、安定していた私の感情の堰を切って、私の胸の底から怒涛の如くにどうっと湧き上がって来る。

 「違う、私の指は変じゃ無い!。」

私は焦ってそう叫んだ。と、クラッと立ち眩みの様な目眩を感じた。急激に目の前が真っ暗になって行く。が、私は、私を飲み込もうとして来るその闇に必死で堪えた。私は足を畳に踏ん張ると、クラクラ来る頭を振った。そうこうしながら、私は必死で闇に飲み込まれる我が身を持ち堪えた。が、ほっとしたのも束の間だった、直ぐにぐらっと上半身が揺らいだ。と思うと、私の平衡感覚は急激に崩れ、体全体が傾き、足元も覚束無くなった。到頭私は堪えようも無くドンと畳に倒れ込んだ。

 …と思ったのだが、意識がはっきりして来ると、私の目の前には玄関と居間の間に渡してある仕切り、戸か壁の様な木造りの面が有った。横に目を移すと格子戸が目に入る。『目の前にこれ等が有るという事は…』、私は立っているのだ!、てっきり倒れたと思っていたのに。と私は嬉しい驚きをした。さぞや痛い思いをした事だろうと、私は自身が倒れた時の痛みを想像していただけに、倒れずに済んだ身の無事を知りほっと安堵した。

 「何を騒いでたんだい。」

声に振り向くと、私のすぐ後ろには祖母が鎮座していた。「お祖母ちゃん⁉︎」、私は意外に思って少々驚いた。てっきり彼女は未だ廊下の先にいると思っていたからだ。