Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 82

2020-11-30 11:50:22 | 日記
    祖父は偉いなぁ、私は素直に感動出来た。私の事を厭う視線を彼から受けていながら、私は彼に対して敬愛の念を込めて微笑んだ。そんな私の視線が分かったのだろう、彼は一寸横を向いてから再び私に視線を戻し、はにかんだような、照れたような笑みを私に返してきた。意図せずに祖父のご機嫌は直ったようだと、私は安堵した。

    場に和やかな雰囲気が戻ったところで、私の父が再登場してきた。彼が再び文句を言い出すのかと私は予想したが、おいおいと、祖父に対して話し出す彼の慌てふためいた様子に、私は自分の予想が外れた事を知った。

「どうしよう、あれが実家に帰ると言うんだ!。」

私の父があれと言い、実家に帰ると言うからには、彼の話が私の母の事だと察しがついた。廊下では何を揉めているのだろうか?、私は訝った。大人同士の話なら子供の私には分から無いと怪訝な顔付きで階下の父達の遣り取りを眺めていると、私の如何にも部外者という無責任な視線に彼は腹を立てたらしい、私を見上げると、緊張した面持ちで目を見開き彼は言った。

「お前もなあ、不遜な奴だ。」

母さんに対してどういう態度なんだか。と、元々の事の起こりの原因はお前だろうと言うと、彼は祖父から私に矛先を変えて苦言をぶつけてきた。

    あら、そうかしら!?。私は思った。父の言う事が皆目分からない。今回は惚けた訳ではなく、私は本当に怒る父に察しが付かなかった。何故なら、私の母に対する不遜な態度はこの私の父の影響だったからだ。彼が常日頃、折に触れ私の前で自分の妻を卑下する言葉ばかりを並べるものだから、私も自然彼に同調して行ったまでの事だ。母は馬鹿だ。そんな観念が私の内に在るのは、将に父の言動からの刷り込みであり、全く今まで彼の側に付いた気でいた私には彼からの非難が意外であり解せなかった。母でなく、父に味方している私が、何故肩入れして来た父から攻撃されるのか。皆目合点が行かない。寧ろ、彼から非難の言葉が続くに連れ、私には彼から裏切られたという感情が強くなり、段々と腹が立ってきた。そんな私は遂にはぷんと彼からそっぽを向いた。

    「何だ、その態度!。」

父も声を荒げたが、傍らで祖父がまあまあと嗜めた。あの子も今は尋常じゃ無いんだよ。そしてお前もだろうと、彼は自分の息子である私の父に諭した。

    帰るというなら帰ってもらえば、というのである。それから祖父ははっきりと廊下にまで聞こえる声になると言った。

    「我が子の大事にいなくなるなど、そんな嫁は前代未聞だね。こちらの方から願い下げというものだ。帰ってもらいなさい。」

そう言うと、彼は制する様に私の父の手を取った。いいじゃないか、それはそれで。後は母さんに任せなさい。お前は行かなくていいよ。万事は母さんが上手く遣る手筈だ。

「何時かこうなるだろうと、母さんと話していたんだよ。」

もうあちらにもそうと手配済みだから、お前は心配しないでよい。向こうとこちらの母さん同士に任せなさい。父は息子に耳打ちした。



うの華3 81

2020-11-27 12:29:11 | 日記
 「云、そうだよ。私は何も悪い事はしていない。」と『思う。』。私は答えた。
 
    私は、やや母に対して尊大な態度を取った事を内心悪びれてはいた。が、表面何喰わない顔をしてこの時祖父に同意した。すると私の父は、えっとばかりに驚いた。急に狼狽えると、いや解せ無いなぁとか、あれの話ではと、しどろもどろの態となると頬など染めた。その内「あれにもう一度確認してみる。」という言葉を残し、彼は這々の態で廊下へと引き取って行った。
 
 すると祖父は、急にきつい目を私に向けた。
 
「智ちゃん、お前も悪くないかい。」
 
彼はこう私に声を掛けて来た。あれっと私は祖父のこの意外な豹変に思わず度肝を抜かれたが、私にとって祖父のこの私への非難に思い当たる出来事といえば、私の母に対して私が先程この階段で撮った言動である。
 
 常日頃、時折私が母に対して行うあの様に彼女を小馬鹿にした言動について、しかし、この件については祖父は何も知らないはずだ、と私は考えていた。そこでこの時の私は、責めるような視線を送る彼に対して、この頃外で習い覚えてきたばかりの処世術の一つ、「ちゃっかり」を透かさず出す事にしてにっこりと凡庸に笑った。この場を万事幼さ故の無知の失態と誤魔化し通す事にした。
 
    すると祖父は、「智ちゃんよ、」と、大人も昔は子供だったんだよと言う。彼の責めるような視線は少し和らいだが、私にとって、未だきつい感じを受ける祖父の目だった。それはその時の彼の、私に対する嫌悪感を感じ取れる眼差しだといえた。
 
    祖父の目から私は、私に対する彼の怒りや嫌悪の感情の内に、彼が嫁である私の母に対して注ぐ情愛を感じ取った。実の孫の私とは違う義理の娘である私の母に対しても、彼が既に現在、家族の一員として思い遣っているという、彼の家族愛、自身の家族への庇護の念を感じ取った。この時の私に大人の言い分は理解出来無かったが、私はこの祖父の言動の中に、一家の主はかく有るべきだという手本を見出だした。この家で、将来の跡取りになろうという者は、これは見習うべき事だと感じた。これがこの家、祖父の家系の家風であると迄は到底考え及ばない年端であっても、家の代々とはこの様に受け継がれて行くものなのだと、晴天の青空の如く私の意識に上った。
 
 

うの華3 80

2020-11-27 11:38:15 | 日記
 「姉さんも、まぁ、」
 
…堪え性の無い。そんな言葉を口にしながら、祖父は私の方をチラッと見上げた。その視線には私を責める様な物が有った。何かしら?私がこう思いながらも、少なからず自責の念に駆られたのは否めない。
 
 この事について、私は過去に当の母からも言われた事が有り既に合点していたのだ。要は子供の私が大人の母を思い遣るという、烏滸がましい行為について、私は彼女に嫌味な事をしてしまったのだから。
 
 そう言った事を祖父の視線に薄々勘付きながら、私は恍けてどこ吹く風の態、段上で何食わぬ顔の儘を通していた。すると、
 
「智ちゃん、本当に…。」
 
祖父はそんな言葉を口にしながら、彼の次の言葉を飲み込んだ。そうして思い直したように、私の具合は悪くないかと尋ねて来た。
 
 「具合?、全然悪く無いけど。」
 
こう私が怪訝そうに答えると、彼は、自分で分からない物なんだ、そういう物なんだ。そこがこの場合の厄介な所だ。それが悔いを残す一番悪い例なんだ。こう独り言の様に言うと彼は沈んだ様子で溜息を吐いた。そんな祖父の様子に、お祖父ちゃん元気が無いんだなぁと、私は祖父の齢を思った。
 
 その後、祖父は私の頭痛の具合等尋ねて来た。私は、確かに頭を振ると痛む様だと答えていたが、急に廊下の声音が上がり何やら騒がしくなった。
 
「姉さん何処へ行くんです。」
 
やや大きな祖母の声がした。続いて私の父の声も、彼は何やら盛んに長々と喋っている様子だ。折々母の声もする。この様に廊下では見えない我が家の家族が三者三様、如何やら言い争っている気配だ。
 
    「姉さん逃げたね。」
 
あの様子ではそうだ。あの娘(こ)はまぁ、未だ未だ親になれない人だねぇ…。祖父が階下で独り言を言った。
 
 すると、まぁまぁと仲裁するような私の父の声が、居間の空間を突き通す様に伝わって来た。
 
「では母さん、私が先に見に行って来るから。…お前はここで待っているといいぞ。」
 
今迄より際立った、明瞭な感じの父の声だ。廊下から私達の所へ迄もよく聞こえて来る。そこで、父がこちらへ来るようだと私は思った。
 
 祖父の方も「やっと出て来る気になったか、あれも未だ未だ青いなぁ。うん、いやいや、母さんも頑張ったよ。」、と微笑んだ。彼は満足そうに目を細めている。そんな祖父の様子に、私は、廊下に近い分祖父の耳には私の耳より彼等の会話が明確に届いていたのだろうと推理した。この事で、私は家族の役割、相関関係という物を漠然と悟った。そうしてこの世の家族という物は、多分そういう物なのだろうと判断した。
 
    その後、私達の予想を裏切らず、居間には漸くの事でという具合に私の父が登場した。これが舞台なら観客の拍手が起こりそうな場面だと、私は感じ連想したくらいだ。彼はおっかなびっくりといった感じの顔で、緊張した面持ちでこちらに視線を注いでいたが、次の瞬間、首をしゃっきりと伸ばすと、思い立ったようにこちらを向いて大股で真一文字に突き進んで来た。
 
 「父さん、あれに聞いたけれど。」
 
彼は自分の父である私の祖父に近付くと言った。
 
「父さん、父さんと智であれの事を担いでいるんだって?、酷いじゃないか。」
 
と、如何にもこの事には合点していると言わんばかりの有様で彼は自分の父に文句を言った。そうして彼はちらりと私にも責めるような視線を投げ掛けた。
 
「智、お前も降りてきて母さんに謝るんだ。」
 
 ここで祖父は、「どちらの母さんに?。」と私の父に尋ねた。「勿論、智の母親の方だ。」と私の父は答えた。
 
    はぁて、おかしいなぁと、祖父は訳が分からないという様に思案投げ首、なんの事やらと息子に応じた。「智も同じ返事をするだろうよ。」。そう彼は息子に応えると、「なぁ智ちゃんよ。」と、私の方を見上げ私の同意を求めた。

今日の思い出を振り返ってみる

2020-11-27 11:27:42 | 日記

うの華 104

 縁側で転んで、床の木目を間近に見た日から、私は目を凝らすと縁側で板の観察をするようになった。尖ったささくれでまた怪我をしたくなかったからだが、床板をよくよく眺める内に、私は模様と......

 良いお天気です。年内はこれで寒くなる一方だと思っていたので、こんなに良い天気になるとは、びっくりしました。日差しが眩しく感じるくらいです。少し庭の手入れをして、鉢の様子なども眺めていました。
 最近食物の頂き物が有り、食べる物が有る有難み、嬉しさという物を味わいました。歳ですね。

うの華3 79

2020-11-26 16:24:58 | 日記
 私の手にポタリと何かが落ちた。何だろう、母の涎だろうか?。見上げる私の目には、如何にもそんな事が起こりそうな感じで母の口元が緩んで見えた。透かさず「汚い!」という言葉を口にした私だった。母はえっという感じで怪訝な面持ちをした。私の視線の先が自分の口元に注がれているのを察しながら、彼女は「何だい?」と私に言った。
 
 「お母さんの涎が私の手に落ちたの。」
 
腹を立てた声で私がこう文句を言うと、彼女は自分の手を口元にやり、手の甲で拭う仕草をした。それでも彼女は私の文句に合点が行かなかったらしく、拭う仕草をした方の自分の手の甲をしげしげと眺め、暗い階段の空間に外から僅かに漏れ込んだ残渣の薄い光の中、彼女の手の甲を晒してその皮膚表面の反射の具合を観察していた。
 
 「濡れて無いじゃないか!。」
 
彼女は不満げな顔と声を私に向けると言った。そうやって、彼女は暫くむっつりとして私を見据えていたが、ここで私は、その母の目が涙を含んでいる事に初めて気付いた。『涙⁈…、』ハッとしてそう思うと、私は彼女が何かしら悲しい目に遭ったのだと察した。それは何時何処で?。今し方の私の祖父とのやり取りの中に、彼女のこの涙の原因が有るのだろうか?。私は感じ取った。
 
 『そんな風じゃ無かったと思うけど。』…。私はこの邪推を程無く打ち消した。先程の私が、祖父に母を苛めるなと言った事にしても、私はその言葉に、言葉通りの意味を込めて言った訳では無かったからだ。単に、家族の遣り取りに参加したくて、私はその時何かしらそれらしい事を口の端に乗せただけなのだ。
 
 『変だなぁ?何でお母さんは泣いているんだろう。』、私は考察した。きっと彼女の事だ、また何かで物事の取違をして、悲しくなって涙が出たのだろう。こうぼんやりとした目の前の、涙顔の母の顔に私は推理した。そこで、
 
「お母さん、悲しむ事は無いよ。」
 
と彼女にアドバイスした。きっとお母さんの勘違いだよ。
 
「大丈夫、大丈夫。きっと大した事無いんだから。」
 
そう言うと、にっこりと笑って母の顔を見詰め彼女を元気付けようとした。私は家族の一員、彼女の子としての役割を果たし努力したつもりだった。
 
 すると、次の瞬間、私の母は何を如何思ったのかどっとばかりに目から涙を吹き出した。その顔は、口元の涎どころの騒ぎでは無い形相で、彼女の顔は満遍なく濡れそぼった形相へと変貌した。
 
 えっ、え、え、え…、と、彼女は声に出して泣きじゃくると、わぁあとばかりに階段を下り降り、「もうこれ以上は辛抱出来ません。」と祖父に告げると、彼の返事も待たず傍を抜け、よろめく様にして居間から廊下へとばたばたと姿を消した。