Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

温故知新

2019-05-31 11:33:57 | 日記

 「やぁ、戻って来たんだって。」

副長のチルは悪戯っぽそうにシルバーブルーの瞳をキラキラさせると、にこにことした顔でミルに声を掛けました。掛けられた方のミルにすると、副長と船内の通路でばったりの出会い頭だった事から、意表を突かれた形で一瞬驚きました。が、ここに自分がいるのが如何にも意外だという副長の表情や声の調子に、ミルは心外だと感じるとムッとした顔色を隠す事が出来ませんでした。

『何だか含みのある言い方だな。』

そう感じ取ったのでした。そんな不満そうな部下のミルの顔色を見ながら、チルは早口で言葉を続けました。

「てっきり向こうにいる好きな女性と結婚してしまったと思ったよ。艦隊も辞めて戻って来ないと思っていたよ。」

ふふんといった感じの彼の言い回しに、

「そんな事ありません。」

と、ミルは抗議するような気持ちを込めてきっぱりと否定するのでした。しかし彼は内心、チルの洞察力の深さ、その判断力の正確さに心底驚いていました。直線的な思考の持ち主の彼には度肝を抜かれてしまった感じでした。

「分かりましたか?」

と不思議そうに聞くミルに、

「分かるよ。」

したり顔でチルは答えました。

 お前の様子を見ていれば簡単に想像がつくよ。誰にだってね。お前が任務の、地球人の女性に対してきちんと向き合えなかったのは、心に誰か気になる女性が1人いたからだろう。その人の事からお前の気持ちが離れられなかったからなんだろう。

「例えそれがシュミレーションでもね!」

チルはどうだいという様に、彼の心の奥底を見透かしたようにこう語り掛けました。

 「その様子では振られたようだな。」

それはまぁお気の毒に、こう言ってチルはやや床に視線を落とすと、長いまつ毛の瞳を伏せ、ミルの視線を外して曖昧に微笑みました。

「まぁ、この船や宇宙にだって、女性はごまんといる訳だから、その内いい人が見つかるよ。」

当面は特殊任務に集中して、その事に力を注ぐんだね。吹っ切れて丁度良かったじゃないか。

そう言って慰めるようにミルの肩をポン!と叩くと、副長のチルは「失礼、用があるから。」とそそくさと休憩ラウンジに向かって去って行ってしまいました。

 はぁ―っとミルは溜息を吐きました。『誰にでも分かる。』か、そんなに自分は任務に対して不甲斐無い態度だっただろうか。チルの言葉を噛みしめながら、ミルは気持ちを新たに船内の持ち場へと向かったのでした。

『故郷の星で得た知識を基に、きっと特殊任務をこなして見せる。』

ミルは旧友達のロマンスの話を基に、新しい自分の未来を切り開こうとしていました。あれこれとこれからの任務の企画案を練って未来を展望してみるのでした。通路を急ぐ彼の歩調は速さを増して行くのでした。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-05-31 10:09:46 | 日記
 
土筆(85)

 「お前何かあったんだろう。」母は直ぐ家に帰ろうとせずに私に尋ねるのでした。「私も親だから分かる。」というと娘の顔を覗き込もうとします。別に何でもないと、私は涙を見られ無い様に......
 


 社長は最初から社長ではない、という様に、親も最初から親ではなく、段々と親になって行くという過程でしょうか。


うの華

2019-05-30 11:01:55 | 日記

    その日の午後の事だったと思う、多分昼食後に、私はその頃いつも皆の遊び場になっていたお寺の境内へとやって来た。私が境内に足を踏み入れると、ふと何かしら何時もとは違った気配を感じるのだった。その為私は勇んでいた足を緩めると、周囲に気を配りながら慎重に歩を進めて行った。すると境内を進んで行く私にその違和感を感じさせた原因が徐々に分かって来た。

 山門から真っすぐに進む私の目の先には本堂が建っていた。その建物の中心に、私に違和感を抱かせた原因が有るのだという事が段々と分かって来た。何が常とは違うのか?、その正体がはっきりと私に理解できるまでにそう時間は掛からなかった。それは近付くにつれ視界にはっきりと映って来たからだった。常とは違う原因の正体、それは本堂の扉だった。

  『 扉が開いている。』

何もない普通の日に、本堂の扉が開いている事があるのだ。と、この時初めて私は知った。

 今まで私が遊びに来ると、このお寺の本堂の扉は何時もしっかりと閉じられていた。勿論仏事で何か行事がある時には開いているのだが、平日、しかも境内に全く大人がいない状態、読経の流れていない静かな日常時にはしっかりと閉じられていた。その為、普段近隣の子供達が遊びに来る様な時間、しかも数人の子供達だけが訪問するような状態では、この本堂の扉は全く開いていた事が無かった。その為これは相当私には大きな事件だった。

 私は警戒心と興味から慎重に歩を進めると、おずおずと本堂に上がる階段下までやって来た。そしてそこからそーっと見上げてその扉の開いている様子を眺めてみた。しげしげと見詰めてみると、太い木彫りの外の扉の奥には、障子の張られた木の扉が有った。障子戸は閉められていた。

 こんな風にこのお堂の扉は開くものなのかと、私は横に引かれて半畳程開いた扉や、その扉を擁した本堂の壁に当たる部分の木の造りの具合を観察していた。普段はその扉の模様からか、張り巡らされた木戸の組み合わせ具合からか、どこが入り口に当たるのか全く分からない程に、この入口の扉と同じ型の模様が正面からぐるりと側面迄繰り返されて、この本堂を囲っている様に見えていた。それでそれ迄の私は、普段、この大きなお堂には入り口が無いのだと思っていたくらいだった。

 しかしそれはじっくりと考えると変な話で、何かしら行事がある時にはこの本堂は大きく開いている。『…だから、確かに入口は有るのだ。』と、私は折に触れるとそんな疑問が頭をもたげて来て、閉め切られている時の本堂の正面から側面周りの壁を手で触れて見て回ったりした。唯、その疑問は疑問としてあっても、まぁいいかと、当時の私はあまり深く考える事が無かった。

 そんな私が、こうやって、実際に入り口が開いているのを唯1人で、じっくりと落ち着いて観察する機会を得た事は、実に大きな発見であり好機と言えるものだった。

 へぇーえと、自分の家の菩提寺の本堂を思い浮かべ、相対してみると、お寺のこういった大きなお堂、つまり本堂なのだが、にはやはりちゃんと入り口という物が正面に有る物なんだな、と合点した。

 私は自分の発見を興味深く思ったが、ほんの少しだけ開いた本堂の扉という、こう、やはり見慣れない光景に、奇妙な感じが募って来た。しかも境内にはまだ遊び相手達は誰も来ていない。辺りは水を打ったように静寂そのものだった。本堂の中も物音一つしない、耳を澄ましてみても全く人の気配が無かった。

 私はそっとその場を離れ、何事も無かったように何時も皆と遊んでいる広く開けた境内の広場の方へと移動した。私はそこで、何時もの様に昼食を終えた誰か幼馴染達が遊びにやって来るのを待つ事にしたのだ。

 所在無くその場でうろうろとして、跳ねたり跳んだりしゃがんだり、暇つぶしに意味の無い動作を繰り返していた私だが、何時もなら、やぁ、もう来てたのか、等、話し掛けてやって来る筈の幼馴染が、全く誰1人も姿を現して来ない。

 どのくらい待っただろうか、私はふと本堂を見て、その開いた入り口に人影の動きがあるのに気が付いた。その人は見知らない男の人で、その場所にいつの間にやって来たものか、本堂の中から出て来たのか、寺の外からやって来たのか、私には皆目わからなかった。唯、私にはその人が中年の男の人であるという事だけは遠目でも判断出来た。その人は先程開いていた本堂の扉の付近で現れたり消えたりしていた。が、その内扉の開いた根本にしゃがみ込んで座り込んでしまった。それ迄私は遠目に眺めていただけだったが、誰だか分からないおじさんが、確かにその場所にいるという存在を感じだすと、私は妙にその存在が気に掛かって来た。寺に自分と2人だけだと感じたせいかもしれない。

 今日は入口が開いているだけじゃ無くて、境内に大人の男の人までいるのだ。と私は思った。今までこの寺の境内で、子供だけしか見た事のなかった私には、大人の、しかも男の人が境内に存在していて、じっくりと座り込んで長居しそうな気配なのが、常とは違いやはり奇妙で怪しく気に掛かり、何だか不思議な物事に思われた。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-05-29 13:45:00 | 日記
 
土筆(84)

 答えを返して来なかった初めての相手が自分の親戚のお兄ちゃん、自分の従兄であれば尚更でした。この時私は世に出て初めて年上の人間、世間の人というものにはっきりとした失望感を得たのでし......
 

 こうやって過去を振り返ってみると、何でも無駄な事なのかもしれません。


今日の思い出を振り返ってみる

2019-05-28 10:15:18 | 日記
 
土筆(82)

 そうです、この日の空は一部気流が速く、雲が走っている所がありました。彼が気付かない内に、空には新しい雲が現れ、太陽もそんな流れの速い雲の交錯する中で、現れたり隠れたりしていたので......
 


 夕日は脆弱な太陽のイメージです。