「親の言う事は、はいはいと何でも聞いて置くものだよ。」
祖母はこう私に諭したのだが、私にはどうも納得がいかなかった。していない事をしたと言わねばならないのか?どうも釈然としない話だ。それで、私はやはり祖母にその確認をする事にした。
「していない事でもしたと言わなければならないの?。」
すると祖母は、していないこと迄…、と言い掛けて言葉をとぎらせた。そしてやや考えている風でいたが、
「していない事って、どんな事だい?。」
と問い掛けて来たので、私は新たに開いた障子の穴の方向を差して、あの穴だと説明した。父は犯人を知っているのに、私に開けた事にしろと言ったのだと説明した。それでもはいはいと、私は父の言う事を聞かなければいけないのかと、私は祖母に訴えた。
「その事であの時お前達は揉めていたんだね。」
そう祖母は言うので、私はそうだと言って頷いた。その時、私は彼女が、私と父との言い争いの一件を全てきちんと把握していた訳ではないという事に気付いた。
「お祖母ちゃんはあの時寝ていてね、途中から起きてお前達の揉めている話を聞いてね…。」
そうすまなそうな顔付でしょんぼりすると祖母は私に言った。
「親の言う事を聞かない子だと、あの子の話ばかり聞いていたものだから…。」
彼女はそう小さく言うと、「私が見た時のお前の態度がああだったものだから、てっきりお前の我が儘だとばかり思って…。」と、「すまない事をしたね。」と謝ってくれたのだった。そして、
「いくら親の言う事だって、していない悪い事までしたという必要は無いよ。」
と言うと、あの子にも言って置くからと、私の父にも忠告して置いてくれる事を約束した。
「きっとお前のお父さんにも注意しておくからね。約束だよ。」
祖母は優しく言ってくれたのだった。私は祖母が最後に付け足した言葉、約束の言葉にハッとする物を感じた。祖母の真心を感じたのだ。そこまで私に気を使ってくれるのだと、それ迄の自分の親に照らし合わせて大層嬉しく感じた。感激したと言ってもよかった。