「もうそろそろお開きにして帰りませんか、続きはまた後日という事にして。」
蛍さんの父のこの申し出に、『そうだなそれがいいだろう。先の事が大体わかっているのだから、焦る事は無いな。』
と光君の祖父も思います。それで蛍さんの父の意見にそうですねと同意しました。
付き添いの2人はそれぞれに電話番号の交換をする事にしました。お互いに聞き合いながら手帳にメモを終えました。
「光、祖母さん達に言って、帰る準備をしてもらいなさい。」
祖父は光君に言いつけると、自分は蛍さんに少しお話があるからと孫だけ先に行かせ、
彼女の父に少しお子さんと話をしたいのですが良ろしいでしょうかと、お伺いを立てるのでした。
彼女の父は、自分も帰り支度をするよう家族に言って来ますから、その間に子供と話をしておられるとよいでしょう。
そう言って光君の祖父の申し出を快く承諾すると、直ぐに座敷へと去って行きました。
本堂には光君の祖父と蛍さんの2人だけになりました。
さて、何から話をしたものかと祖父が考えていると、ポケットの写真に思い当たりました。彼はにこにこともう一度封筒を出してみます。
今度は最初に中から薄い紙を取り出しました。そしてそれを開いて目を通してみます。
そこには細かく区切られた四角形の図、細かな活字などが幾つかグラフのように並んでいて、どうやら何かの資料のようです。
彼は胸ポケットからルーペを取り出して紙に印刷された図を眺めてみました。
『こんな事が…』彼等の世界では普通の事なのかもしれないが、未来の印刷技術だろうかと思いながら、彼はルーペで非常に細かい図面の隅から隅までを眺めてみます。
図の幾つかは婚姻届け、戸籍謄本などの役所からの証明書のようでした。国籍や住所などの移動関係の書類もあり、
祖父が一瞥したところでは、孫及び蛍さんの人生の所在を過去から現在に至るまで把握できる資料となっているようです。
『戸籍謄本だけでよいのに。』と祖父は思い、何故婚姻届けまで並べてあるのかとよくよくルーペで記入された名前をみて、
彼はハッとしました。その後は自分が気付いた事について、関連書類をあちらこちらと追跡調査してみます。
そうしてその知りたかった事態の全容が明らかになった瞬間、彼は紙の最後に手紙らしい小さな文字の綴られた図を発見しました。
「…これでよろしかったですか。」
手紙の最後にはそう書かれていました。特に署名はありません。『誰が書いた文章なのだろうか?』光かしら、
初めはそう思ってみた彼でしたが、どうもこの結び書きは嫁の蛍さんのような気がします。そう思うと彼はこの問いかけに、
「よくないねぇ。」
と呟くのでした。目の前の蛍さんを見つめながら、君には良くてもあの子には…、そう言いながら暫く沈黙して、
彼はやがて微笑すると、静かに紙を元の通りに折り畳み、また元の封筒に収め、自分のポケットに仕舞い込みました。