「ホーちゃんの事よ、あの子、怒ってる。」
茜さんは小声で手短に答えるのでした。
あの子あんたに怒ってる、それもかなり怒ってる。と言うと、彼女は、
「多分もうあんたとは遊ばない、もしかしたら、私共遊ばないかもしれない。」
そう付け加えるのでした。
「何でだよ、あの子俺の事が好きなのに、なんでもう遊ばないなんて…」
そう言って彼がよくよく茜さんの顔を見上げると、立ったままで彼を見下ろす茜さんの顔は、ゾッとするような怒りの形相に変わっていました。
彼はハッとしました。その時の茜さんの顔付きはというと、はっしと彼の顔を見据えたまま目は吊り上がり、眼光はキッとした感じで怒りの炎が燃え上がり彼を睨んでいるのでした。彼女の口も、キュッと両頬にまでつり上がり、かっとばかりに細く開くと、その口から気炎でも吐き出されてきそうな気配に見えました。それは彼女の蜻蛉君への、憤る非難を込めた感情の発露でした。
蜻蛉君は思わずぶるっと振るえました。茜さんの顔を見詰めていた視線を地面に落とすと、「脅かすなよ。」と小声で言いましたが、蛇に睨まれた蛙の如くです、彼は暫くは身動きがとれないのでした。