私の願いが天に届いた様に、祖母は次の間から再び寝室へと戻って来た。
「お前、」
祖母は言った。如何して、嬉しそうにしたのかい?。
祖母に言わせると、あんな場合の人はもっと話を聞かせてくれと、強請るように言葉をあれこれと畳みかけて来る物だと言うのだ。そんな彼女の言葉を聞いて、私は祖母の顔をポカンとして見上げた。彼女の言葉が何を意図するのか全く不明なのだ。お祖母ちゃんは何を如何したいのだろうか?、私は訝った。
「全く、お前と来たら…。」
祖母は伏し目がちになると恥じらう様に頬を染めた。私が彼女の顔を見るとも無しに見詰めていると、祖母の薄紅に染まった両頬骨の下部、頬っぺたの先に妙に緩んでふるふるとした弛みが出来ている。おやっ?、私は思った。こんな頬の突起の様な物が2つ、彼女の両頬の下に有っただろうか?。私は首を傾げた。
考え込んだ私に、祖母はほくほくとした笑顔を向けた。
「聞きたいかい?」、「知りたいかい?」。彼女は私にそんな事を聞いて来る。我に返った私は彼女の顔を見上げた。祖母の顔は柔和な笑顔で満たされていた。こんな祖母の笑い顔など見た事も無い。私は思った。かつて彼女のこんな笑顔を見たことが有るだろうか…。
そんな事を考えて自分の記憶を辿り始めると、私の脳裏には家の神棚に祀られた大福様の姿が浮かんだ。あっ!、と私は思い当たった。同じ笑顔だ!。そうなのだ。目の前に有る膨よかな祖母の笑顔は、大福様のほくほくと弛んだ顎頬の笑顔にそっくりだった。
私は、これはと、祖母の状態を推量した。私が如何見直してみても、この笑顔を湛えた目の前の女性は「幸福」なのだ!、としか察する事が出来なかった。私には他の考察が浮かばなかった。