Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 44

2020-09-28 10:42:25 | 日記
 私の願いが天に届いた様に、祖母は次の間から再び寝室へと戻って来た。

「お前、」

祖母は言った。如何して、嬉しそうにしたのかい?。

 祖母に言わせると、あんな場合の人はもっと話を聞かせてくれと、強請るように言葉をあれこれと畳みかけて来る物だと言うのだ。そんな彼女の言葉を聞いて、私は祖母の顔をポカンとして見上げた。彼女の言葉が何を意図するのか全く不明なのだ。お祖母ちゃんは何を如何したいのだろうか?、私は訝った。

 「全く、お前と来たら…。」

祖母は伏し目がちになると恥じらう様に頬を染めた。私が彼女の顔を見るとも無しに見詰めていると、祖母の薄紅に染まった両頬骨の下部、頬っぺたの先に妙に緩んでふるふるとした弛みが出来ている。おやっ?、私は思った。こんな頬の突起の様な物が2つ、彼女の両頬の下に有っただろうか?。私は首を傾げた。

 考え込んだ私に、祖母はほくほくとした笑顔を向けた。

「聞きたいかい?」、「知りたいかい?」。彼女は私にそんな事を聞いて来る。我に返った私は彼女の顔を見上げた。祖母の顔は柔和な笑顔で満たされていた。こんな祖母の笑い顔など見た事も無い。私は思った。かつて彼女のこんな笑顔を見たことが有るだろうか…。

 そんな事を考えて自分の記憶を辿り始めると、私の脳裏には家の神棚に祀られた大福様の姿が浮かんだ。あっ!、と私は思い当たった。同じ笑顔だ!。そうなのだ。目の前に有る膨よかな祖母の笑顔は、大福様のほくほくと弛んだ顎頬の笑顔にそっくりだった。

 私は、これはと、祖母の状態を推量した。私が如何見直してみても、この笑顔を湛えた目の前の女性は「幸福」なのだ!、としか察する事が出来なかった。私には他の考察が浮かばなかった。

うの華3 43

2020-09-28 09:55:41 | 日記
 この話はこれ迄だよ。不意にあっさりと祖母は言った。私は話が途中で打ち切られたような物足りなさを感じたが、祖母の切なそうな表情を見て取ると、彼女から無理して話を聞きだすべきでは無いと察しられた。それで別段彼女に異を唱えなかった。

 確かに、その後も私の胸中には祖母の話の続きを聞きたいという思いがあり、それは私の胸で燻ぶっていた。私は自身の好奇心が再び勢いを増しそうだという胸苦しい気配を感じた。この事を自身で感じ取ると、私は自分の胸に手を遣った。そこで胸の内の好奇心を消してしまうべく、私は胸を揉むようにして手を動かした。それから、祖母の姿を見ない様にと顔を俯けた。こうやって私が祖母から目を逸らしている内に、彼女が階下へと消える事を願い私は目を伏せていた。

 そんな下降目線の私の視界に、祖母が階段へ向かうべく踵を返す彼女の足が映り込んで来た。良かった、祖母はこの場を去るのだ。これで私は彼女が言いたくない話を無理やり彼女から聞き出すという真似をしなくて済むのだ。私はほっとした。ホッと吐息が漏れた。

 祖母はこれを聞き逃さなかった。私を離れようとしていた足が躊躇する様に数歩乱れた。が、彼女はこの場を去る様に歩を踏み出していった。と、彼女の足取りは途絶えた。寝室の次の間で立ち止まった彼女は、気掛かりらしく考え事をしている様子だ。

 不思議な物だ、この祖母の様子を目にすると、私は物分かりの良い考えから、何とか彼女が戻って来て話の続きを聞かせてくれるようにと願い始めた。自分本位で、祖母の気持ちより自身の興味を満たしたいという、利己的な考えへと私の思いは変わりつつあった。

今日の思い出を振り返ってみる

2020-09-28 09:37:47 | 日記

うの華 61

 夕刻近く、父は夕飯の用意をするように母に言ってくれと私に言いに来た。「お母さんに?。」私が?。私が母に夕飯の準備を催促するなど生まれて初めての事だった。「子供の私がそんな......

 良いお天気になりました。言い古された言葉ですが、空が高くなりました。9月もあと2日ですね。暫く気候は良いような予報でした。

 先週末、玄関の鉢物や庭に殺虫剤を撒きました。丁度コオロギが泣いている時期でもあり、これでぱったりといなくなってしまうかしらと罪悪感めいた後ろめたさを感じましたが、玄関先は水遣り時に細かな虫が付く様で、ぽつぽつ痒みの有る湿疹が出来る事から、やはり殺虫剤の必要を感じてしまいました。
 中庭や裏庭は、除草時に変な虫がいないと安心なので、これからの除草や庭整理に向けて、前以ての薬剤パラパラです。

 夏が終わり、初秋の候、家事も年末を念頭にして、庭も今期の庭整理です。今年は蔦や芋蔓が除草出来て、玄関先や庭から数が減ったので良かったです。

うの華3 42

2020-09-24 09:57:18 | 日記
 教えられないね。いくら孫のお前でも。そんな言葉を小さく呟くように口にしながら、それでも彼女の瞳は笑っていた。

「皆聞きたがるんだけどね…、この事は人に言うなとあの人からも口止めされているし…。」

祖母はふっと視線を落とすと表情を曇らせた。彼女は何かを思い出したのだろう、その後空間に目を戻して遠い所を見る様な面差しに変わった。

「それに、この話をした時はあの子も気に入らない様子だったし。」

祖母はポツリと言った。

 ここに住めてあの子は嬉しがっていたけれど…。祖母は思い出に浸り始めたのだろう、傍にいる私に語り掛けるというより、独り言の様な話し方に変わっていた。

 他の子達だって、この家は気に入っていたのに。私の話を聞くとそっぽを向いたりして。中には怒りだす子もいてね。如何いう物だか、こっちの苦労も知らないで。

 彼女の言葉が途切れると、祖母は私に背を向けるようにして2階の廊下に目を遣った。その向こうには古び崩れかけて来た土壁が見え、私達の住む家の剥き出しになった内部が見えた。壁には年代物の木の窓枠と、その窓にはめ込まれた曇りガラスが見える。私は祖母の視線を追うと、切子模様の細かな突起が施された部分を持つ窓を見詰めた。いいや、祖母にすると彼女の瞳に投影していたのは、ガラスの向こうから差し込んで来る太陽光の明るい光に透けて見える様な、往時の往来の懐かしい光景だったのかもしれない。

うの華3 41

2020-09-24 09:22:22 | 日記
 私は彼女の言わんとする所が直ぐには飲み込めなかった。が、今の会話の内、彼女の最初の言葉に「がめつい」という言葉があったという事に思い当たると、お前というのは私のことなのだから、祖母は私ががめついと言ったのだ、という事にすぐ考えが及んだ。すると、それは酷いんじゃないかなと感じた。私は眉間に皺を寄せて一応憤慨した。私にしてみると、単純に祖母である彼女を喜ばせようとしただけなのだ。

 そうやって、祖母に一応の不快感を表しながら私は尚も考えていた。祖母が口にした事、私に取って計り知れない事柄。女性が持つ大金に付いてだ。全く私が未知の分野のこの世の出来事。一体それは如何いった類のお金なのだろうか?。
 祖母は家事以外で、今はその家事も私の母が大半を担っているけれど、さして仕事もしていない様子だ。その祖母が如何やって大金を稼いだのだろう。お金を得るからには彼女はそれなりの仕事をしている筈だ。私の考えはそうだった。
 祖母には仕事が無さそうなのに、大金が有るというのだ。彼女所有のお金が有る事自体、私には不思議な事柄だった。私はそういった事実について、これから私の質問する言葉に返答するだろう彼女の件に大いに興味があった。大枚を持つと放言する女性の、ほんの些細な仕草に迄も大いなる関心があった。私は自身の心眼で確りと目の前の女性を捉えようとしていた。

「お祖母ちゃん、どうやってお金を稼いだの?。」

ほれほれ、それごらん、これだからね。祖母は口元から笑みと言葉を漏らした。金儲けの秘訣を、誰でも、どの子でも、聞きたがるんだよ。ほくそ笑むような笑みを口元に湛え、彼女の目には穏やかな光が宿った。そうして孫の私を慈しむような瞳で見つめると、彼女は前掛けの前で手を組み直した。