「父さん、もう駄目だよ。」何をしてももう手遅れだろう。蛍さんの父は祖父に言いました。
それでも、もう駄目だと分かっているからこそ尚更に不憫で可愛いものだろうに、
何でも途中にして放り出して、投げやりだなお前は。
そう祖父は言って、お寺の奥様に文句も言えません、怒りの全てを八つ当たりの様に父にぶつけるのでした。
俺に当たらなくても、と父も分かっていて物調面をして奥の座敷へ入って行きました。
奥様の方もバツが悪いので、祖父と顔を合わせないように静かに台所の方へ周りました。
さっきまで元気だった幼い子が亡くなったと思うと、心情的にも直ぐにその子の遺族の顔を見られませんでした。
今まで一緒だった蛍さんの父の、静かに嘆く様子を見ていると、やはり自分にも目に込み上げて来る物が有ります。
もらい泣きというものでした。奥様はそんな自分の中に湧き上がってくる悲しみを払拭するように、
ついぞんざいに蛍さんを座布団に投げ下ろして仕舞ったのでした。とても座敷には入れませんでした。
蛍さんの方は、具合が悪いからと何時もより優しくされたり、そうかと思うと酷く無造作に放り投げられたりと、
大人の扱いの適当さに如何なっているのかと呆れて仕舞いました。正直腹が立っていました。
それでもふっかりとした座布団の上で横になると、気持ちよく、暖かく、そのままじーっとして休んでいました。
ドスンと下ろされて、また頭が少しくらくらして頭痛もして来たので、自分でも大事を取ってゆっくりと座布団の上で温まっていたのです。
「お前大体、その手のタオルは自分の子の頭を冷やすのに持って行ったんだろう。なんでまだ手に持っているんだ。」
祖父の声が隣の部屋から聞こえて来ます。
父が祖父に言われて蛍さんの所へやって来ました。ほいと濡れタオルを蛍さんの頭の上に載せて行きました。
体が温まり、頭の冷えたタオルが心地よく感じられるようになると、蛍さんはお風呂にでも入っているような感じを受けました。
「あったかーい、気持ちいー。」
そんな事を呟きます。そしてまた眠くなって来ました。心地よい暖かさの中ですやすやと寝込んでしまいました。
「ちゃんと額にタオルを載せて来たんだろうな。」
奥座敷に戻って来た父に祖父は念を押しました。頭に載せて来ただけという父に、
「最後まできちんと世話をしてやるのが親だろう。」
と祖父が諭して、父はまた蛍さんの傍まで戻って来ました。