Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華3 51

2020-10-13 10:12:21 | 日記
 何だか様子が変だ。お祖母ちゃんは怒って下へ行ってしまったんじゃないのかな?。祖母の降りる気配や、留まる気配、誰か不明の話し声や、ハッキリとした祖母の声等、何やら階段で立ち往生している誰とも分からない人の気配を先程から感じていたが、私はまた父の机の前に座すと、机上の国語辞典を開き、再度挑戦と眺め出していた。

 祖母の言葉もあり、目の前の本が子供には難しくて読めない本という、自身には不可能な物だと知ると、私の焦る気持ちは落ち着いて来た。どうせ読めないのだからと、じっくり落ち着いて文字を眺めて見る。すると不思議な事に1つ2つと見知った平仮名が見えて来た。他は全く読めないが、文字の集合体の中に分かる文字を2個発見した事で、私は嬉しさが増してくる気がした。こんな本、嫌いだとさえ思っていたのだが、大人の本と言っても何だか子供の私でも好きになりそうな本だと悦に入り始めた。

 どいてください!。そう祖母の声が大きく聞こえた気がして、私は階段の方向を見やった。何だろうか、祖母は下へ行って、たぶん父がいるだろう台所まで行ってしまったんじゃないのだろうか?。彼女は私の父に用が有る気配でこの場を去り階段に向かったのだと私は察していたのだが、あの声ではまだ彼女は階段上にいる様子だ。私は思った。先程の私の判断が間違っていたのだろうか、私は自分の洞察力の無さにがっかりした。

『てっきり、お祖母ちゃんはお父さんの所へ行ったと思っていたのに…。』

そして、父は祖母に、多分、叱られていると思っていたのに。私は溜息を吐いた。それにしても、未だ祖母があの場所にいるなんて…。何時も敏捷な彼女の事だ、私は停滞しているらしい彼女の行動を不思議に思った。

 さっきも誰かの声と、誰か話をしているらしい声がしたけれどと、私は階段に何人の人がいるのだろうかと不審に思った。それでも、私はその場を立って行くという事をせずに、やや躊躇したが、集中し始めていた目の前の辞書に気持ちを戻した。再び眺めてみたが、2つ以上の平仮名以外、私の見知った文字は見つから無かった。やはり無理か、興ざめしてほうっと息を吐くと、しーんとした静けさが身に迫って来る。2階に1人なのだ。そう思うと孤独感が嫌増して来る。

 待てよ、確かに静かだが、私は気配を感じた。階段の途中、私からは見えない場所から、何やら私には理解できないながらも何かの気配が漂って来る気がするのだ。私はその場所に向けて耳を澄ませてみるが、ことりとも物音はしない。すると、小さな声で「ミ…」という声がした。その声は再びミー、ミーちゃん。と言う。

『お祖父ちゃんだ。』

私は思った。

 可愛い、よしよし等、それは私の祖父の声だった。お祖父ちゃん、具合が悪かったんじゃないのかな?、私は怪訝に思ったが、彼の声と場所を推察すると、祖父が段上にいるのは間違いない様だ。では、お祖母ちゃんはやはり今は台所に達しているのだろうと私は判断した。階段に人が2人もいる姿などかつてこれ迄私は見た事も無いのだから。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿