Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

土筆(64)

2018-05-08 10:13:33 | 日記

 『…』

彼女は無言で兄の言葉を噛みしめました。そして直ぐに兄の言った通りのポーズを決めようと左右の足に気を配りながら片足を上げてみますが、やはり利き足を軸にしてしまうのでした。

「あれっ、」

彼女は致し方無く、横にいる兄に救援を求める様にちらりと視線を投げかけてみますが、そんな妹に兄は動ずる気配が無く、無視したまま全くの不動の体でいます。その兄の冷たい態度に彼女は気持ちがひやりとするのでした。

 『実の兄でさえこうだもの…。世間の人はもっと冷たいのだ!自分自身が確りして世の中を渡って行くしかないのだ。』

常日頃、この様に兄に鍛えられたおかげか、今の様に賢く世慣れし何でも出来る彼女がいるのでした。性格のきつさもこのような環境のせいなのでした。

 彼女は兄の態度にくじける事なくまた戦うポーズに取り組み始めました。せっせと足を上げる練習です。そうすると、数回の内にもう彼女は思う通りのポーズを取る事が出来たのでした。その瞬間、これを横目で見ていた兄はにっこり笑うと、出来たじゃないかと褒め言葉を掛けました。

「何でも俺の言うとおりにすれば出来るようになるんだ。覚えて置けよ。」

そう兄が得意げに言うと、妹もニヤリとして、いかにも彼に同調するように無言で笑顔を浮かべました。

 しかし、彼女の心はまだひんやりとしていました。彼女は思いました。自分自身で出来るようになったので兄のおかげではないわと、そう内心思うと、何時もなら黙ったままでいるのですが、今日は色々な事が彼女にも起こり過ぎていました。その為気持ちが疲弊していたのでしょう、彼女はつい余計な言葉を口から出してしまったのでした。

「別にお兄ちゃんのおかげで出来た訳じゃないわ。」


最新の画像もっと見る

コメントを投稿