Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華 159

2020-02-16 09:58:25 | 日記

 「お父さんの事じゃないの。」

と私が答えると、母は顔をしかめた。

 ここで母は私が父を起こしたのだろうと決めつけてきた。しかしこの時の私は、父が起きて彼は1度寝床から居なくなっていたのだと信じ込んでいた。そこでハッキリ違うと彼女に答えた。 

「お父さんは、1度2階にいなかった。」 

父は起きて何処かに行っていた。そしてまた布団に戻って来たのだと言うと、私は父が戻って来てから彼に声を掛けたのだ。そう母に主張した。

 この私の説明に、母はやっぱりねという感じで不機嫌な顔をすると私を睨んだ。静かに寝かせておくようにと言っただろうにと苦情を口にすると、お前ねと、母は私を咎める口調になったが、次の瞬間、母は口から出かけたその文句を飲み込んだ。

 私がそんな彼女の遠い視線に気付き、その視線の先を眺めると、そこには居間の入り口に立つ祖母の姿が有った。祖母は母を手招きした。母は忌々しそうな表情を浮かべたが、特に私を顧みる事もせず、何も言ったりもせずに直ぐに私の傍から離れ、祖母のいる居間へと発って行った。

 台所に残された私は心外に思い、あれこれと考えて腹立たしく思っていた。しかし父に聞けば全ては明るみに出るだろう、母の誤解も直ぐに解けるだろうと考え直した。後で謝るのは母の方だとほくそ笑んだ。私は自分の気分が落ち着いて来ると、祖母や母がいる居間へとゆっくり向かった。

 入口に着いて、私が居間を覗いて見ると予想に反してそこには誰の人影も無かった。おやと私は思った。祖母や母は何処へ行ってしまったのだろうか?。そこで私は次の間へ進み、階段とは逆の方向にある座敷の中を覗き込んだ。そこにも誰もいなかった。

 おかしいなと私は再び思った。祖父1人ぐらい居てもよさそうなものだ。私がそう思った祖父の姿さえ影も形も見えないのだ。

『内の皆は何処へ行ってしまたのだろうか?、こんな子供の私を1人残して。』

ぽつねんとした私は、その場の忍び寄る静けさに1人孤独を感じ始めた。


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