Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華4 14

2021-12-03 11:16:23 | 日記

 その途端、彼の目前で彼に背を向けていた息子が振り返った。ここぞとばかりに彼は父に向かって言った。

「身に余る女性を貰ったんだろうに。」

「これ以上何の不足があるというんだ。」

この声音は、この子供本来の物だった。子の父も直ぐにそうだと分かった。『自分の息子の言葉だ。』彼は思った。

 そうして、この言葉は彼の妻側の親族の言葉であるに違いない。その言葉を、今現在は目の前にいる子が自分に向けて言っているのだ。自分の家族の言葉として言っているのだ。と思った。彼はこの時、父として、夫として、この自分の家族を守り決して不幸にしてはならない、と自覚した。自分はこの家族の長なのだ、と。

 「そうだ、俺は何をいじけていたのだろう。」

愛する女性を妻にしたというのに。彼は自嘲気味に口ビルの片端を上げて微笑んだ。なぁ、彼は目の前の息子に笑顔を向けると話し掛けた。

「なぁ、何を父さんは思い悩んでいたんだろう。」

こんなにいい子と素敵な嫁さんが俺の側にいてくれるのになぁ。彼は子をあやす様に息子の両手を各々自分の両の手に取ると、よいよいと振った。ほれほれと息子を抱き上げると、赤子にする様に高い高いをしてみせる。再び息子を畳の上に戻して、彼は言った。

「お前重たくなったなぁ。生言う歳になる筈だ。」

そんな事を言って、彼は染み染みとその目に染みる涙を流した。息子はそんな父の自分をあやす行為に上機嫌の体になり、ハハハと父に組み付いてきた。ヤンチャ盛りだ男の子だなぁ、父と子、男同士だそれそれと、2人はどしどし畳を踏み鳴らし取っ組み合い始めた。

 どんどんと、天井に2階の喧騒が響き始めた。その前から楽しそうな声が聞こえていたなぁと、私は階段で沈み込んだ儘のおばさんの様子を見ながら思っていた。先程、清ちゃんの父のおじさんが2階に消えてから、彼の妻のおばさんの方はしょんぼりとして元気が無かった。彼女は沈み込んだ儘階段の登り口で項垂れていたが、遂にはその階段の一つ、登り板の上にひっそりと腰を下ろすと、その儘休息の体でいた。私が見るところ、彼女は泣いているのではないか、そんな雰囲気にも見えた。そんな彼女を案じた私はおばさんと彼女に声を掛けようとした。

 


うの華4 13

2021-12-03 10:04:30 | 日記

 「いけないと思うよ。」

子は言った。「もう済んだ話でしょう、蒸し返すの止めたら。」。父に背を向けて、子は窓の向こうを眺めると言った。

「無用な詮索は止めなさい。」

 父は驚いた。妻の父、義父の声音である。口調もそっくりその儘だった。彼は、息子がこの義父の言葉を義父自身が口にするのを聞いたのだ、と容易に想像がついた。が、何時聞いたのだろう?。彼は疑問に思った。かつて自分がこの言葉を、義父自身の口から聞いた事は確かに有った。だが、部屋には2人っきりだった。確かにそうだった。彼はその時の場面を思い出してみた。

「確かにそうだ。」

彼は口にした。子供の方は彼に背を向けた儘、自分の後ろにいる父の様子を探る様な目付きで頃合いを計っていた。

「何時聞いたにしろだ、」

父は考えていた。清が自分にこんな事を言うところを見ると、自分の態度は問題になっているんだなぁ、向こうさんに。あれも気にしているんだろうか。

 彼は今迄、面と向かって彼の妻に、彼女の亡くなった竹馬の友について詳しく問い質した事が無かった。が、彼女がその友について思う時、その死について嘆き悲しむ時、彼女の悲嘆に暮れる様子に腑に落ちない物を感じるのだった。あの激しい戦禍である、自分だって亡くした友人の数は1人2人では無い。自分の親しい家族親戚にだって戦死した人間は何人もいる。その事や人について思い出し、染み染みと涙する事は確かに自分にも有る。が、妻のそれは、悲しみの淵に沈み込み浮かび上がって来れない程の深淵を彼女の周囲に感じさせるのだ。彼が彼女の勤め先で彼女と出会った当初、その悲壮な影に彼が気付いた時、彼女の陰影は、彼に自分の庇護を要する女性だという幼気なさを感じさせたのだ。また、その彼女の顔に指す虚無的な影は、痛々しい程に美しく、彼女の美貌を弥増してその顔に尚余り有る程の光沢と艶を与えていたのだ。

 「美しい」、彼は呟いた。当時の事、プロポーズした時の事、走馬灯の様に彼の脳裏に浮かぶその色取り取りの光景。「綺麗だよ。」彼は夢見る瞳で呟いた。


今日の思い出を振り返ってみる

2021-12-01 08:47:16 | 日記
 
うの華3 82

    祖父は偉いなぁ、私は素直に感動出来た。私の事を厭う視線を彼から受けていながら、私は彼に対して敬愛の念を込めて微笑んだ。そんな私の視線が分かったのだろう、彼は一寸横を向いてか......
 

    12月のはじめは雨の水曜日。今年ももう最終月です。

    年末になって今年を振り返ってみると、祖父の50回忌の年でした。私はてっきり来年だとばかり思っていました。命日にはお経だけでも懇ろにと考えていましたが、命日月は過ぎてしまったので、どうしようかと思いましたが、このままですね。故人の供養は遅れてするものでは無いといいますからね。

    幸いというか、四年前の祖母の回忌の時に、四年の差ならと祖父母夫婦の回忌を合わせ、家にお寺さんを招き、ごく内輪だけで回忌を済ませました。なので、家にすると祖父母の50回忌法要は既に済んでいる、といえば済んでいるのです。

    祖父を懇ろにとは思っていたけれど…、そうだな。と、こうなってしまった結果は結果で、やはり当たり前だったのかもしれないと考えてしまいました。