20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
毎日更新。児童文学情報・日々の暮らし・超高層からの眺望などニュース満載。

黄泉の国

2008年08月02日 | Weblog
 7月29日、母が老衰で亡くなりました。
 93歳でした。

 前日、従姉妹と母を訪ねたときは、精いっぱいの力をふりしぼり、栄養補助ドリンクをひとくち、口にいれるたび「おいしい、おいしい」と、これ以上ないくらいの極上の笑顔を浮かべながら言い、さらにお水をあげると「おいしい、おいしい」と、晩年の母特有のくしゃくしゃのうれしそうな笑顔をむけて言っていました。
 さらには、
「立派な人になってね」
 と、私の手を握りしめてつぶやき、
「うれしい、うれしい。ほんとうによくやってもらった。幸せだ、幸せだ。」
 と、弟やその家族にむけて、数え切れないくらいの感謝の言葉をつぶやきました。
 まるでそれが遺言のように。
 あまりに大きな声で母と従姉妹と私の笑い声が聞こえてくるので、弟がびっくりして二階の事務所からおりてきたくらい、楽しい一時間を過ごすことができました。
 もしかしたら、大笑いをしたあの時間が母の命を縮めてしまったのかもしれません。
 その翌日の深夜、母はあまりにも唐突に、なんの前触れもなしに黄泉の国に逝ってしまったのですから。
 でも、あの大きな笑い声とうれしそうな母の顔を思い浮かべるたび、あんなふうに楽しい気持ちを胸にいだきながら逝ってしまったことに、悔いは残りません。
 あれはすべて、あの日、楽しいことが大好きだった母が、自分の死を予感しながら仕掛けた、楽しい時間だったのかもしれないと思いながら。

 たくさんの人たちに集まっていただいた神道でのお通夜、告別式でした。
 黄泉の国から、母はこの様子をきっと、うれしい気持ちで眺めていたことでしょう。
 
 昨晩、帰宅し、今朝このblogに向かいながら、もう母がこの世にいないことを、しみじみと実感しています。
 いつも明るく楽しく、ほんとに人間が大好きで、おしゃべりの大好きな母でした。
 なぜか、母は、あの日、私の手を握りしめこう言いました。
「いい文章を書いてね」
 大往生をした母のことを、ちょっぴり誇らしいような、そしてもの悲しいような気持ちで思いだしながら、いま、この言葉を噛みしめています。
コメント (14)
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