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東京は足立区西新井大師の縁日での啖呵売が昨日のカエルの図でした、この予告篇はYouTubeで見られます。さてこちらは昨日のカエルの予告しました「チームワークの中身」についての山田監督の書かれている言葉を紹介します。
山田組のコーヒータイム
ー「ドキュメント男はつらいよ」刊行に寄せて
山田 洋次
私の組のロケーション撮影では、午前と午後、コーヒーが出ることになっている。
いつの頃からそうなったのかよく憶えがないが、多分七年、八年前からだろう。別に頼んだわけでもない。なんとなく、いつの間にかそういう習慣ができたのだ。
もちろん、ハリウッドのようにキッチンカーなどというものがあるわけではない。ロケーションにはつきものの、照明用大型ジュネレーター(発電機)を積んだトラックの運転手の太田さんという人が、仕事の合い間に、お手のものの電気を使って店舗用の大きなコーヒーメーカーで沸かしてくれるのだ。
ところで、太田さんは松竹の社員ではなく、映画器材のレンタルを商売にしている会社から派遣された人である。だからスタッフの為にコーヒーを沸かすという仕事はまったくこの人の好意なのである。確かコーヒー豆は組の予算で買っているはずだが、コーヒーメーカーや砂糖、紙コップなどはこの人の支出なのか、器材会社の金で買うのか、その辺のことはよく尋ねたこともない。ただ、山田組の仕事の時は、器材会社で必ず太田さんを派遣してくれることになっているし、だから太田さんは殆どスタッフの一員のように、当人も我々も考えていることは事実だ。
私の組のスタッフの半分は松竹の社員であり、残りは一本毎の契約者や太田さんのような形で他所の会社から派遣された人たちだが、その殆ど全員が、最低三年か四年は一緒に仕事をして来た、いわば〝仕事仲間〟なのだ。だから、四十人前後のスタッフは、お互いに気心や性格、簡単な家族の状況程度のことは理解し合っているのである。そして、その全員が、寅さん映画に参加していることに誇りを抱いてくれている。
こういう形で映画を作れるということは、日本だけでなく、世界でも珍しいことなのではないか、と思う。寅さんシリーズが長続きしている理由は、と問われることが多いが、私はまっ先にそのことを挙げたい。ながい年月をかけて築き上げられたスタッフの人間関係、つまりチームワークは、金に換算できない、高価な財産である。
ロケ先、たとえば曇り空で天気待ちの時など、なんともいいタイミングでコーヒーが出てくる。私のコップは少量の砂糖でミルクなし、カメラマンは砂糖とミルク、照明技師はブラックと、それぞれの好みまでスタッフは心得てくれている。
紙コップの暖かいコーヒーを飲みながら、そんな風にして仕事を続けていられる幸運を、私はしみじみ思うのである。