橋長戯言

Bluegrass Music lover, sometimes fly-fishing addict.
橋長です。

EHAGAKI #325 ≪滋味≫

2016年04月11日 | EHAGAKI

お世話になります

どっしりと重い鉄鍋(ダッチ・オーブン)を使った料理が好きです

たとえば人参
皮は剥かず、タワシで洗いそのまま鉄鍋へ入れて弱火、水を使わない無水調理で驚くほどの甘さに仕上がります


たとえばスープ
刻んだたまねぎを入れ、オリ-ブオイルを回しかけ、よく混ぜてから弱火にかけ、重たい蓋をする
わずかに蒸気が吹いてきたら、蓋をあけ、蓋についた汁を鍋に戻す
木べらで丁寧に混ぜ、蓋、、、たまねぎが透明になり甘い香りになったら、じゃがもを入れ、蓋、、、
こうやって野菜ひとつづつに火を通していき、昆布水(昆布を一晩水ににつけもの)を入れ、蓋、、、

丁寧に混ぜて作った野菜のスープ、なんとも優しい味になります


今回のお題は、“滋味”、春ですが、温まる料理“蒸らし炒め”のお話です

辰巳芳子さんの著書を参考に

辰巳芳子スープの手ほどき 洋の部 (文春新書)
辰巳 芳子
文藝春秋
辰巳芳子 スープの手ほどき 和の部 (文春新書)
辰巳 芳子
文藝春秋


■わきまえ事
■蒸らし炒めのこと
■蒸らし炒めのかんどころ


■ ■ ■ ■ ■


■わきまえ事

母は料理を教えるつもりなど全く持たず、素材にふさわしい火力のつくり方、その用い方を教えた。
つまり「火」に対するわきまえ事を見せ、聞かせた。
わきまえ事と一言でいえば、ものの道理、ものことの方則であると思う。

それかこれか、いま私は、ガス火を「0(余熱)から10」と計り、時に覆いを用いる。他人様にも同様に教える。教えることができる。
思うにこの火の扱いから自然発生的に溢出したのが、私のスープなのかも知れない。

教えようと思って、教えたのではない。
つくろうと思って、つくったのではない。
他意のないこと、そのものであった。

こんなこともあった。味の素が私のスープを分析させてほしいといった。

「びっくりしました。グルタミンが多量に残っていました。グルタミンは加熱すると消失するのが定石であるのに、ノーベル賞ものですよ。」

私のスープは生クリームもバターも使わぬ程質素である。何故、グルタミンという旨味が残存しているか。素材ではなく技術である。

即ち、0から10に至る火加減の故であろう。加えて、具材を混ぜあわせるへら使いもあるだろう。

へら使いは風呂場で体を洗ってもらった思い出の応用だ。色々な人がお風呂に入れてくれたが、母は、左から右へ、右から左へと組織的に洗い、心地よかった。この洗われ心地を、たまねぎ、じゃがいもにあてはめた。具材は崩れず、つやを帯びて火が通る。

※スープの手ほどき洋の部・和の部、序文にかえて より一部抜粋


■蒸らし炒め、のこと

ポタージュという呼称は、スープの総称である。
とろみスープをポタージ・リエ、澄んだスープをポタージ・クレールと呼ぶ。

ポタージ・リエは食材を渾然一体とさせ、とろみをつける性質上、個々別々にものが食べられない方に向く。
蒸らし炒めは、そのポタージ・リエに必須の手法である。

まず、厚手の鍋を選ぶ。蓋が重く、鍋本体に吸い付く出来が望ましい。つまり、野菜類から溢出する水分で蒸気をつくり、野菜全体に汗をかかせ、火力の調整を手掛かりに野菜類を柔らかくし、旨味を引き出すから。気密性も必要の故である。

火加減は野菜が焦げぬよう、0(余熱)~10(最強)のうち2~5程度を使い分ける。
通常、旨味成分(グルタミン)は熱で消失するが、この手法を用いると残存する(味の素株式会社の実験)。
故に、私のスープは材料が質素であっても美味。

※「スープの手ほどき洋の部:蒸らし炒めのかんどころ」より抜粋


■蒸らし炒めのかんどころ

洋:ポタージ・リエ

・野菜に等しく火を通すため、玉葱は1ミリ、じゃがいもは8ミリなどと厚さを揃えて切る。

・鍋にオリーブオイルと最初の野菜(たまねぎが多い)をいれ、混ぜて均一に油をまとわせた後、着火する。

・蓋をして、時々木べらで中を混ぜる。木べらは鍋底に垂直に構え、ぬかりなくまんべんなく混ぜる。

・最初がたまねぎの場合、刺激臭が消えたら、次の野菜を加える。つなぎは、じゃがいもや生米など。

・火が通りにくい野菜から順に加え、それぞれを蒸気で透き通るまで炒める。最後は等しく火が通る。

・途中、焦げるのであれば、水少量を足す。蓋についた蒸気も大切に鍋へ戻し、旨味成分を逃さない。

※ここから先はミキサーにかけたり、ブイヨンや牛乳を加えたり様々なバリエーションに

※「スープの手ほどき洋の部:蒸らし炒めのかんどころ」より抜粋


和:けんちん汁

・厚手の鍋にごぼうとオリーブオイルを入れ、木べらで混ぜてから弱火にかけ蓋をする。時々蓋を開けて静かに混ぜ、ごぼうの香りに包まれるまで蒸らし炒める。

・にんじんを加える。にんじんにつやが出たら、蓮根、大根の順に加える。その間も時々蓋の水分を鍋に落としながら、ていねいに材料を炒め続ける。

・大根が透明になったらこんにゃくを加える。鍋の材料を片側に寄せ、鍋底で直接こんにゃくを炒めるとくさみが抜けやすい。続いて、椎茸、油揚げを加える。

・かるく混ぜたら、だし汁を温めてから、ひたひたになるまで入れる。塩としょうゆの半量も加え、沸騰するまで中火で煮る。

・沸騰したら里芋を加える。

・里芋が柔らかくなったら、水切りしておいた豆腐を手で崩しながら加える。残りの出汁と塩を入れ、しょうゆで味を調える。

※このけんちん汁は従来の手法ではなく、イタリア人がミネストローネをつくる時の手法で、アクが最小限に収められ、大根は大根、人参は人参本来の風味を保てる。

※余った具と汁を分けて保存すると味が崩れることはない。また色々なバリエーションに

※「スープの手ほどき和の部:けんちん汁のかんどころ」より抜粋


■ ■ ■ ■ ■


ということでした


「まごころ」ってものは、“込め方”があってね。練習しないと、込め方の“こつ”は身につかないのです。

辰巳芳子さんの名言です
想い、意思だけではなく、手を使って、行動して身につけたいものです


ではまた

映画「天のしずく 辰巳芳子“いのちのスープ”