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「古時計を見ながら」

2024年07月28日 | 大分県
物心がついた頃から、家に古いぜんまい式の時計がありました。
しかし、いつしか、その時計は動くことなく、物置の中に置いていました。

ところが、かつて、時計店を営んでいた親戚になる方が、全部分解して、修理をしてくれたのです。
10年くらい前のことです。

90歳を越え、奥さまをなくされ、時計店は、閉めたのですが、体・腕・指にしみ込んだ時計の仕組み。

修理はばりばりでした。
数十年ぶりに、また時を刻むようになりました。
「まだ、100年は動くよ。」
 
私がこの世に存在していない昔のにぎやかな声が聞こえてきそうな感じがしました。

「戦時中は、釜山で親が時計店を営んでいたんですよ。
戦争に負けて、なんとか日本に帰りました。
その時は、16歳だった。時計は、みんな置いていかなければならなかったよ。
でも腕時計だけは、服に隠して持って帰ったんだよ。」
と戦争中のこともしみじみ話してくれました。

わたしが知らない、いろんな人生を刻んでいました。

今日の夜、電話がかかってきました。
その方がお亡くなりになったという報でした。

寂しさが募りました。

修理してくれた時計は、時を刻み続けています。
「ボン、ボン、ボン。」
と古時計の時の鐘が鳴ります。

時だけは、流れていきます。


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