朝日新聞8月12日夕刊「国家再建の思想(15)」から転載します。
◇中曽根内閣には後藤田がいた
中曽根内閣と小泉内閣は似通っているところが少なくない。「大統領的首相」を目ざした中曽根、「自民党をぶっ壊す」と宣言した小泉。中曽根は国鉄、小泉は郵政、それぞれ「小さい政府」をめざす「民営化」に挑んだ。が、中曽根はそれを成功させ、小泉はつまずく。小泉は、反対派を党から追い出すという、のるかそるかの勝負に出た。
どこが違っていたのか。中曽根には後藤田正晴(91)という人物がいた。中曽根内閣の5年間、官房長官、行政管理庁長官、総務庁長官、再び官房長官とつねにそばにいた。
◇後藤田の役割
「友人から『よく中曽根なんかとつきあっているな』と言われたけど、政治と個人の好き嫌いは別だと答えていたよ」と後藤田。内務省で中曽根の先輩。警察官僚のトップ。田中角栄の懐刀。中曽根にこわれて就いた役回りは、官僚ににらみをきかせることと、肝心なとき政権が走りすぎないように抑えることである。
◇自衛艦ペルシャ湾派遣に反対する
1987年夏から秋口、中曽根や外務省はイラン・イラク戦争で機雷がまかれたペルシャ湾の安全航行確保のため「自衛艦を派遣したい」と強く主張した。後藤田は
「あそこは交戦海域。戦争の覚悟はあるんですか。私はサインしません」と立ちはだかり、断念させた。
◇中曽根の憲法改正案に注文をつける
中曽根が会長を務める世界平和研究所は今年1月、憲法改正案を発表した。後藤田は研究所の講演会でこんな注文をつけている。
「前文で日本の歴史伝統をうたうなら、聖徳太子の『和をもって尊しとなす』を入れてほしい。自衛隊の国際活動を認めるならば、海外で武力行使はしないことを明記してもらいたい」
※川本のコメント
後藤田さんが言うように、法案に注文をつける場合は条文に明記しなければ安心できません。国会の政府答弁などの議事録に留めて了解事項とする方法がありますが、これの拘束力は当てになりません。5年、10年、20年と時が過ぎれば、時代の雰囲気や権力者である政府指導者や上層官僚の考えも変わります。
条文に明記されていない法案成立当時の了解事項の類は尊重されず、年月を経ると忘れ去られてしまいます。明記された条文でさえ、その時代の政府の都合に合わせて運用解釈が変化していくと覚悟しておいた方がいいくらいです。
国会で審議される法案については、まず法案原文を読むのが一番です。…もっともそれがわかっていても、生活費稼ぎに追われる私には、それだけ勉強している時間がないのですけれど。