不思議そうに見ている私の前で
父親は、玩具のボックスカメラの
ピントグラスに庭の紅葉の木をとらえて
黒い紙に包まれたフィルムをカメラの切り口に
入れて、黒い紙の引き蓋を引き上げました
父親はカメラのシャッターレバーを指で押さえました
するとシャッターが開いてフィルムに露光が始まります
「1…2…3」と数えて指を離すとシャツターは
閉まります
父親は現像薬を水で溶きます
現像液は赤い色をしていました
現像液を小さな赤いセルロイドの皿(バット)に
… … …
次に定着薬も水に溶きますと今度は青い色をしています
これを青い色のセルロイドのバットに入れました
父親は台所で赤い現像液の入った赤いバットに
露光済みの黒い紙に入ったフィルムをそのまま
漬けて、トントンと叩きました。
数分して今度は現像液に浸かった黒い紙のフィルムを
次の青い定着液のバットに漬けました
数分して青いバットから黒い紙に入ったフィルムを
引き上げて黒い紙を破きました
フィルムには紅葉の木が陰画(ネガ)で
写っていました。乾燥したフィルムを私に渡して
「日光写真(にっこうしゃしん)で焼いてごらん…」と
横で見ていた私に渡してくれました
紅葉の木を撮影した居間も台所も昼間のひとときでした
なぜか母親は居ませんでした。市場へその日の買い物に
出掛けていたのでしょうか…