私が現役でガンの研究をしていたころですのでもう40年近く前のことですが、「ガン悪液質」という状態が問題となっていました。
この悪液質になると症状が急激に悪化し、死に至るケースが多く、この原因がよく分かりませんでした。その後悪液質という言葉をあまり見なくなりましたので、こういった概念がなくなったのかと思っていました。
ところが実際はガン悪液質の研究は、多くの生理現象がからんだ複雑な障害であり、解析手法も確立していなかったため遅れていたにすぎなかったようです。
理化学研究所の研究グループは、ショウジョウバエを使った実験モデルで、ガン細胞が出す「ネトリン」というタンパク質が関わっていることを突き止めました。ガン悪液質と呼ばれる筋肉や脂肪の減少といった全身症状は、進行ガン患者の80%以上に認められ予後に悪影響を及ぼします。
悪液質の存在は古くから「カケキシア」という用語の翻訳で、明治時代に訳され現在も使われているようです。研究グループは、複雑な生理的異常を個体レベルで解析するのに適したショウジョウバエを実験モデルに選びました。
次にヒトのガン遺伝子である「Ras遺伝子」に着目し、ハエの幼虫の将来眼になる組織にこの遺伝子を発現させて、ガンの実験モデルを作りました。成虫の目に生じたガン細胞は転移や増殖はしなかったのに、数日以内に80%以上のショウジョウバエが死亡しました。
この事から研究グループは、全身に悪影響を与えるのはガン細胞そのものではなく、ガン細胞が分泌する物質という仮説を立てました。詳しい解析を続けた結果、悪影響を与える20種類の物質候補が浮かびました。
これらすべてについて遺伝子発現を阻害して物質ができないようにする実験をつづけたところ、ガン細胞が分泌するネトリンの発現を抑えると、個体の生存率が著しく上昇しました。ネトリンは神経回路の形成に関わる物質として知られています。
研究グループはネトリンだけを蛍光タンパク質で可視化すると、ネトリンは哺乳類の肝臓や脂肪に相当し代謝の維持に必要不可欠なショウジョウバエの脂肪体組織に作用して、カルニチンという物質の産生を抑制することを確かめました。
カルニチンは細胞内の脂肪酸をエネルギーに変えるという重要な働きをします。研究グループの一連の実験・解析結果から、ネトリンがカルニチン量を低下させエネルギー不足を起こして衰弱し、死につながることが明らかになりました。
ガンになったショウジョウバエに不足しているカルニチンや、カルニチンの働きで作られるアセチルCoAという物質を補うと、生存率が回復することも分かりました。
このようにガン悪液質の一端が明らかになりましたが、この結果から悪液質移行を抑える薬剤の開発にはまだまだ課題は多いのかもしれません。
この悪液質になると症状が急激に悪化し、死に至るケースが多く、この原因がよく分かりませんでした。その後悪液質という言葉をあまり見なくなりましたので、こういった概念がなくなったのかと思っていました。
ところが実際はガン悪液質の研究は、多くの生理現象がからんだ複雑な障害であり、解析手法も確立していなかったため遅れていたにすぎなかったようです。
理化学研究所の研究グループは、ショウジョウバエを使った実験モデルで、ガン細胞が出す「ネトリン」というタンパク質が関わっていることを突き止めました。ガン悪液質と呼ばれる筋肉や脂肪の減少といった全身症状は、進行ガン患者の80%以上に認められ予後に悪影響を及ぼします。
悪液質の存在は古くから「カケキシア」という用語の翻訳で、明治時代に訳され現在も使われているようです。研究グループは、複雑な生理的異常を個体レベルで解析するのに適したショウジョウバエを実験モデルに選びました。
次にヒトのガン遺伝子である「Ras遺伝子」に着目し、ハエの幼虫の将来眼になる組織にこの遺伝子を発現させて、ガンの実験モデルを作りました。成虫の目に生じたガン細胞は転移や増殖はしなかったのに、数日以内に80%以上のショウジョウバエが死亡しました。
この事から研究グループは、全身に悪影響を与えるのはガン細胞そのものではなく、ガン細胞が分泌する物質という仮説を立てました。詳しい解析を続けた結果、悪影響を与える20種類の物質候補が浮かびました。
これらすべてについて遺伝子発現を阻害して物質ができないようにする実験をつづけたところ、ガン細胞が分泌するネトリンの発現を抑えると、個体の生存率が著しく上昇しました。ネトリンは神経回路の形成に関わる物質として知られています。
研究グループはネトリンだけを蛍光タンパク質で可視化すると、ネトリンは哺乳類の肝臓や脂肪に相当し代謝の維持に必要不可欠なショウジョウバエの脂肪体組織に作用して、カルニチンという物質の産生を抑制することを確かめました。
カルニチンは細胞内の脂肪酸をエネルギーに変えるという重要な働きをします。研究グループの一連の実験・解析結果から、ネトリンがカルニチン量を低下させエネルギー不足を起こして衰弱し、死につながることが明らかになりました。
ガンになったショウジョウバエに不足しているカルニチンや、カルニチンの働きで作られるアセチルCoAという物質を補うと、生存率が回復することも分かりました。
このようにガン悪液質の一端が明らかになりましたが、この結果から悪液質移行を抑える薬剤の開発にはまだまだ課題は多いのかもしれません。
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