内的自己対話-川の畔のささめごと

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初元の「準安定(状態)」から生じる個体の相補性 ― ジルベール・シモンドンを読む(16)

2016-03-05 02:10:00 | 哲学

 個体化過程は、安定か不安定か、あるいは、運動か休息か、という、互いに他項を排除する二者択一的な思考では捉えることができない。そこでシモンドンが導入するのが「準安定(状態)」(« métastabilité »)という物理科学的概念である。
 この概念が個体化原理の説明として有効に機能するためにそれと同時に導入されるのが、一システムの「潜在エネルギー」、「秩序」、「エントロピーの増大」などの概念である。さらに、これらの諸概念をいわば統括する鍵概念として「(情報)形成」(« information »)が導入される。
 これらの概念が、前個体化存在(l'être préindividuel)から個体化過程で生じた個体を、二者択一的な思考とはまったく違った仕方で把握することを可能にする。
 この「準安定(状態)」概念を導入する頁は、私にはついていくのになかなか骨がおれ、無知ゆえのとんでもない誤解の恐れなしとしないが、そこでの「準安定(状態)」論を思い切って私なりにまとめれば以下のようになる。
 これらの概念とともに拓かれるパースペクティヴにおいては、ある個体が在るということは、もともとの準安定状態から、ある形の下に一定の情報が潜在エネルギーとして秩序づけられ、エントロピーの増大が制限されている状態あるいは負のエントロピー状態にあるということである。
 このように個体の生成を捉えるとき、個体が在るということは、準安定状態にある前個体化存在の過飽和あるいは過融解に対して、そこに一定の解決が与えられたということである。ところが、この解決は、その前個体化状態から生まれて来たものである。それゆえ、その「同じ」個体は、前個体化存在の自己差異化の結果として得られた対立項のいずれにも還元することができない。波動あるいは粒子、物質あるいはエネルギーという、個体把握の相補性もそこから説明される。
 逆に言えば、この相補性は、現実の原初的な準安定性の認識論的な反響だということになる。