内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

生成する存在としての関係 ― ジルベール・シモンドンを読む(23)

2016-03-13 07:31:19 | 哲学

 昨日の記事で読んだシモンドンの仮説からどのような帰結が引き出されるのでしょうか。原文では、仮説提示の直後に、その仮説から導かれうる帰結が控えめな表現で提示されています。その提示の仕方は簡潔ですが、「関係(連関)」(« relation »)「内的共鳴(共振)」(« résonance interne »)「参加(分有)」(« participation »)などの重要語の理解に有益な記述もあり、しかもフランス語としては比較的易しいところなので、まず原文をそのまま引用します。

Selon cette hypothèse, il serait possible de considérer toute véritable relation comme ayant rang d’être, et comme se développant à l’intérieur d’une individuation nouvelle ; la relation ne jaillit pas entre deux termes qui seraient déjà des individus ; elle est un aspect de la résonance interne d’un système d’individuation ; elle fait partie d’un état de système. Ce vivant qui est à la fois plus ou moins que l’unité comporte une problématique intérieure et peut entrer comme élément dans une problématique plus vaste que son propre être. La participation, pour l’individu, est le fait d’être élément dans une individuation plus vaste par l’intermédiaire de la charge de réalité préindividuelle que l’individu contient, c’est-à-dire grâce aux potentiels qu’il recèle (p. 28-29, souligné par l’auteur).

 ご覧のように、イタリックで強調されている部分がやたらと多いのですが、それだけシモンドンも強調しかつ読者の注意を促したいところなのでしょう。重要と思われるポイントを挙げていきましょう。
 まず注目されるのは、「あらゆる真なる関係(あるいは連関)」に「存在の身分」(« rang d’être »)が与えられていることです。すでに個体化された諸項がまず在って、その間に関係が成り立つのではなく、関係そのものが存在としての身分を有つ。しかし、その存在身分は、固定的なものでも恒常的に安定的なものでもありません。新しい個体化の内部で自発自展するものです。それが「真なる関係」だと言うのです。
 このような存在としての関係は、個体化システムの内的共鳴(共振)の一面であり、システムの一状態を構成する要素だとされます。
 ここで突然、「生命体(生きているもの)」(« vivant »)という言葉が出てきます。しかも「この生命体」となっていますから、先行する文章中の何かを指しています。関係を指していると思われます。つまり、ここでテーマとなっている「あらゆる真なる関係」とは、生命体(生きているもの)のことに外ならないのです。
 この生命体は、統一体(あるいは単位)以上でありかつ以下のものだと言われます。どういうことでしょう。生命体は、己の内部に問題群を抱えていながら、己に固有な存在よりも広大な問題群の中にその要素として入ることができるということです。
 個体にとって、より広大な個体化の中にその要素として入ることが「参加(分有)」することです。その参加が可能になるのは、個体が内包している前個体化的現実の負荷を介して、つまり己に内蔵されている諸々の潜在性のおかげです。
 上に掲げた原文から見えてくるのは、生命の世界での存在概念のシモンドン独自の構想です。
 この構想においては、個体化が完了した個体を基礎単位とするという前提が放棄されています。生命レベルでの存在は、一つの問題群に他ならない個体が内包する関係とその同じ個体が内含されているより大きな関係との、共振的・可変的・重層的な生成過程の全体として捉えられています。各個体は、それぞれ己の問題を内に抱えながら、己が内属するより大きな個体化過程に、その過程内に発生している問題に解決をもたらしうる要素として参加することができる「関係存在」です。この重層的な関係の生成過程が恒常的な個体化過程に他なりません。個体にこのような重層的な個体化過程への参加を可能にしているもの、それは、その過程に参加する各生命個体に潜在性として包蔵されている前個体化的現実の無限の豊穣性です。