内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

モーツアルト『ヴァイオリン・ソナタ集』― ヒラリー・ハーン&ナタリー・シューの仲の良い演奏

2023-02-20 23:59:59 | 私の好きな曲

 このブロクのカテゴリーの中の投稿件数のトップ3は「哲学」「雑感」「読游摘録」で、これだけで全体の八割超を占める。他方、久しくご無沙汰してしまっているカテゴリーもいくつかあるが、「私の好きな曲」もその一つだ。
 ストリーミングで音楽を聞き流すようになったのは Bose SoundTouch 30 を購入して以来のことで、もう六年ほどになるだろうか。机に向かったままスマートフォンで操作でき、CDのような入れ替えの必要もなく、自分で選曲しないからけっこう頻繁に新しい曲に出逢えて、それがお気に入りになったことも少なからずあり、すっかりこの聞き方が習慣になってしまった。
 その反面、今日はどの曲を聴こうかなと数百枚のCDが並ぶ棚を眺め、さんざん迷った挙げ句に一枚のCDを選び、ステレオ装置に正対端座して音楽を聴くことそのことに集中することがなくなってしまった。
 ボーズのサウンドタッチを購入する以前は、二〇〇六年に購入したケンウッドのミニコンポでずっと聴いていた。ストラスブールに越して来る前、パリに八年間住んでいたときは、テレビもなく、この安価な装置でひたすら音楽鑑賞していた。サン・ミッシェル大通りのジーベル・ジョゼフのCDショップには足繁く通ったものだった。
 そのコンポのCDプレーヤーが壊れた。変調は何年か前からあったのだが、とうとうまったくCDを読み込まなくなってしまった。分解して内部のホコリを除去し、読み取りレンズを磨いてみたのだが、やはりだめで、もし使い続けたければ修理に出すしかない。しかし、もともと安価な装置であるから、それに高い修理代をかけるのも躊躇われる。
 新しい装置を買うことにした。コンパクトで高性能な装置を一ヶ月ほど探し、マランツのM-CR612に決めた。それが先週金曜日に届いた。さっそくJBL ES20BK 3way に接続して聴いてみた。驚くほど音質が良くなった。スピーカーのサイズからして重低音の膨らみと奥行きを期待するのは無理だが、高中音域はきれいに出ている。もう少し音質を改善できるかと、スピーカーケーブルをちょっと太めなものに交換した。重低音に少し厚みが出た。室内楽曲、器楽曲、声楽曲についてはこれで不満はない。
 聴くのが楽しくなった。かつてお気に入りだったCDをとっかえひっかえ聴いてみる。以前の装置との音質の差を視覚的な比喩を使って言えば、以前喜んで見ていた名画は実はホコリを被っていて、そのホコリを払うと鮮明な色使いが細部までよく見えるようになったくらいの違いとなるだろうか。
 というわけで、ここ数日、かつてのお気に入りを新鮮な気持ちで聴き直している。今日のタイトルに掲げたハーンとシューの演奏は、この二人きっと仲良しなんだろうなあと思わせる気持ちのよい好演。澄んだ青空が広がり、春遠からずと感じさせる陽光が室内に差し込む午後、軽やかできらきらとした音の彩りを楽しむことができた。