内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

広く深い言葉の世界への「入口」としての辞書項目

2024-04-23 14:30:36 | 雑感

 昨日、辞書項目執筆作業が思いのほか速くはかどり、残されていた三項目をほぼ半日で一気に仕上げることができた。今朝方、原稿を再度読み直し、若干の手直しと追加を施し、編集責任者に送信した。これで執筆依頼を受けた大項目一つと中小八項目のすべての執筆を終えた。
 今月八日に執筆を始めたときには、自分で課したデッドラインである今月末に間に合わせるために背水の陣を敷いたが、その甲斐あってか月末まで一週間残して作業を終えられたのは幸いであった。編集責任者からは労をねぎらう感謝の辞をすぐにいただいた。編集責任者としてはむしろこれからの編集作業が大変だろうと想像する。
 拙稿を自分の目だけで推敲するには限界があり、他者の目で厳しく検討してもらう必要がある。過去にも、別の辞書のある項目を執筆したとき、編集主幹からのこれでもかというほどの赤入れが入った拙稿を受け取った。いささかショックではあったものの、結果としてそれだけ文章が改善されたのだから、そのために彼が割いてくれた貴重な時間と労力をありがたいと思わなくてはいけないだろう。
 フランス語では初めてとなる日本哲学辞(事)典がどのような読者に迎えられるのか、よくわからないところもあるが、編集責任者が最初にこの企画を出版社にもちかけたときから、出版社側は乗り気だったと聞いている。長年にわたって数多くの事典を手掛けてきた老舗の出版社のことだから、出版企画としてそれなりの「勝算」があるのだろう。
 一昨日の日曜日が最終回第十話だったドラマ『舟を編む ~私、辞書を作ります~』(NHK BS)の第三話に、辞書出版に尽力している営業担当が執筆者の一人である大学教授に向かって「入口をください」とお願いするシーンがある。
 思いを込めて推敲を重ねて書き上げた項目「水木しげる」の原稿の大部分が編集部によって削られ、誰でも書けるような簡単な説明に置き換えられているのを見て怒り心頭に発し、自分がこれまで執筆担当したすべての項目の原稿を取り下げるといってきかない教授に対して発された言葉である。辞書の項目には一定の執筆規定があり、それを逸脱するような詳しい説明は載せられない。辞書の項目は、未知の言葉に出会った人がその言葉の向こう側に広がっている世界に入るための「入口」、その「入口」をください、と教授を説得しようとしたのだ。
 口幅ったい言い方に聞こえるかも知れないが、私が執筆させてもらった項目も、仏語圏で日本の哲学に関心をもった人たちがより広く深く日本の哲学について知りたくなるような「入口」になってくれることを心から願っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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