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チロちゃんと陽子さん
あっ、と何かに気付くのは、ある瞬間だが、それまで精神がドライヴしていたのを忘れる位に出会うとき、それまでが白昼夢の中に居たように思える。
昨年後半、親の看病に奔走している頃は、まさかという・自分が配置していたはずの視界構造の瓦解に、ひたすら過ぎ行く時々刻々を感じ、即応していた。
その後、親の病状好転に伴い、”ほっ”としたのもつかの間、そこで浮かび上がったのは、当人である自分の死であり、いつの間にか自分は送られる側に居ることだった。
昨年後半から”いずれ”ではない”今”を感じつつ、この1年弱を過ごしている。
これはもともと持っているペシミスティックな感情では無い。明らかな事実である。
「じゃあ、そこでお前はどう考え、どう生きる」を問いてきた。
結論は言葉上は”今を生きる”しか無い。当たり前だが、言葉なり概念が如何に信用ならないものかが分かってきた。
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三島さんが(色々な背景があれども)45歳で自決した時期を、多くの敬意抱く人が気にしてきた事実を、今は装飾抜きで理解する。
コインのオモテとウラで、実は同じような匂いを持つ太宰治の書いた一節は、過去”太宰的な芝居表現”と片付けていたが、今になって身に迫る。
『死のうと思っていた。
ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。
着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい 縞目 が織りこめられていた。
これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。』
何度も女と心中しつつ、太宰だけが生き残る。
それは、猪瀬直樹の取材の下、全て計算ずくであったことが明らかにはなったが、その情動の源は否定出来ない。
また、太宰の観察の眼の鋭さは、死に方うんぬんで済む話ではない。
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バブル時代、ラヴホテルの前 消えた場所は駐車場へ
今、海のむこうで多くの生死の境を想像しつつ、堕ちた日本の身の回りを照射すると、他人事(ひとごと)では無い世界を生きなきゃいけないと思う。
もはや世間と乖離してしまった中、週末に写真家・荒木経惟さんが、片目の視力を失ったことを知って、言葉を失くした。
優れた写真家。
という言い方は、歴史を俯瞰的に見られる、死を迎えない神の視点だが、日本人の多くは、自分の生命が永遠に続くと思っている気配がある。
しょせんそれぞれは数十年で終わり、生き残るはシステムという中、せっせとアメリカ傘下のグーグルに吸い込まれるように、東に向かって持たされたSNS機器を通じて、せっせと・ちっこい画面に向かっている。
311という裂け目(キャズム)に一瞬おぼろに見えた景色は、既に閉ざされている。
”ブログも同じじゃんか”と言われるだろうし、理解するが、そういう風にも思っていない。事実はどうあれ。
私は科学者でも無い。
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荒木さんと陽子さん 下駄屋から南千住へ歩く夜・銭湯への道
荒木経惟という人には特別な感情がある。
歳の違いはあれど、同じ場所で産まれ育ち、幼児の頃・お母さんにお世話になり、その生き様を追いかけてきた。もはや姿の無い私の原風景が、荒木さんの写真にはある。
それは、”こいつは同郷なんだよ”と盛んに訴える、出雲出身の親父に見い出す”ありがちな”風景では無い。
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三ノ輪の酒屋さん前 陽子さん
東京・日本を写真という形で、雄弁な語り部よりも、より大きな何かを示してきた、重要な裂け目を定着し得る才能を持ち得る一人。それは、森山大道さんだったり、YMOだったり、大竹伸朗さんだったりもする。
こういった想いは、人それぞれだろうが、”それぞれ”と生易しい言い方をすると、気が付けば某団体アイドルと同並列で「文化」と言われてしまうから恐ろしい。どうあがこうが、”今”は変化し・過去は潰されていく。
だがらこそ、生きている限りはあらがうしかないし、伝えるしかない。
その後は知らないし、知りえない。
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1989年 東京物語
荒木経惟 豊田市美術館「往生写集―顔・空景・道」展オープニング・トーク 2014年6月29日まで開催