
たまたま出会えたベックの「モーニング・フェイズ」(2014年作品)。
この夏、初めて出会えた1枚。長引く梅雨が明ける手前まで、歩くたびに聴いた1枚。
つい聴き惚れてしまい、ひたすらループしつつ、下町を歩くと、街の匂いや姿とこの音楽が見事にシンクロする。
東京五輪決定後、次第に潰されてきた東京。それでも昭和の匂いを残した街。
その匂いをネコのように探りながら、触感をたよりに痛みの塩梅を見つつ、ビッコを引きながら日々静かに迷い歩く。
ベックを聴くのは、デビューアルバム「オディレイ」以来。
そもそも「オディレイ」は、当時神保町のレコード店「JANIS」で偶然出会ったもの。
名も知らぬ音楽を店内で聴き、気に入ってその場で購入した。1996年のことだった。
かつて細野(晴臣)さんが、高野寛さんの番組「ソリトンSide-B」で言っていたセリフを思い出した。
「音楽っていうのは一音聴いただけで、それを創った人のスピリッツがわかる」
ベックの「モーニング・フェイズ」には、そのスピリッツを感じる。
多様な音楽を聴き込んだ体内から出てきた、静かなハーモニーと響き。
「オディレイ」当時、ハヤリの”ミスクチュア”という言葉に隠されて、ベックという音楽家の実体を掴み損ねていたのだろうか?
そんなことを思う。
アルバム「モーニング・フェイズ」の素晴らしさ。
この夏に出会えた作品を聴きながら、消えゆく昭和の街をさまよう。
■Beck 「Morning」'14■