今日は、今の「アンビエント」という広範囲に及ぶ概念の祖である、タンジェリン・ドリームを聴いていた。
初めて彼らに出会ったのは、1981年の「Exit」=出口 というアルバムだった。
そこから、さかのぼって、すばらしき、独自の異世界にトリップする麻薬のような音に入っていった・・。
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今日、紹介するのは「Hyperborea(邦題: 流氷の詩)」という、1983年の作品。
「Exit」で得たポップでかつタンジェリン・ドリームらしい世界の後だけに、がっかりした人も多かったアルバムと思う。
「ポップ」という大地に次第に降りてきていることは、「Exit」でも明らかだったが、「Exit」の旧(当時は)ソ連の深い社会主義国の陰鬱さを漂わせた名アルバムの後、「流氷」の世界に飛ぶとは思いもしなかっただろう。
ただ、自分は「個人的には」このアルバムは、クロスオーバーイレブンなどを通じて、よく聴いたし、LPもCDも持っていて、時に聞きたくなる。
仕事もプライベートもうまくいかない今の自分には、ジョイ・ディヴィジョンの「ディケイズ」の方が、ぴったり来るが、それでも今朝は、このアルバムを、CDプレイヤーに入れて電車に乗った。
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ジャケット、そのもののような音が、いきなり飛び出す。(ジャケットも好きです。)
よく晴れた青い海に流氷が浮かんでいる様が、A面 1曲目の「ノー・マンズ・ランド」から見えてくる。
明るい、そう、明るいのだ。
けむたい明るさではなく、突き抜けた明るさである。
フェアライトでサンプリングしたと思わせるエスニックな音。
ヴァンゲリスの「南極物語」のテーマ(これもまた素晴らしい曲です)や、ジャン・ミッシェル・ジャールの「ZOOLOOK」(エスニックです)を想起させる。
メロディアスで、いい曲である。
A面 2曲目「Hyperborea」は、一転して、スローな音。
フワーッとした音は、流氷の上の蜃気楼を思わせる情景描写。この曲もいい。
A面 3曲目は、スローから、また一転して、ぐいぐいと力強くフレーズが刻む「シナモン・ロード」。
このアルバムは、レコードでは、B面を1曲で締める「スフィンクス・ライトニング」で終わる。この曲が、一番従来の、タンジェリン・ドリームに近いのかもしれない。独自の反復音を繰り返しながら、次第に展開し、発展していく世界。
暗い、憂鬱な気分を忘れて、暑い中でも若干温度を下げてくれるアルバムである。
「死とひきかえにするだけの仕事は存在しない」そんなことを、自分に言い聞かせながら、ひたすら鬱に入っていく気分の逃げ場を探す日々である。
A面
1・No Man's Land 9.16
2・Hyperborea 8.46
3・Cinnamon Road 4.03
B面
Sphinx Lightning 19.56