【第十五条】
1 社会主義における社会的生産の最高の目的は、人びとの増大する物質的および精神的欲求をもっとも完全にみたすことである。
2 国家は、勤労者の創造的積極性、社会主義競争および科学技術の進歩の成果にもとづき、経済の指導の形態および方法を改善することにより、労働生産性の向上、生産の効率および仕事の質の向上ならびに国民経済の動的および計画的で釣合いのある発展を保障する。
ソ連式社会主義経済における生産活動の一般的な指針を示す条文である。第一項では物質的な欲求とともに精神的な欲求の充足がうたわれていることは、専ら物質的な欲求の充足に傾く資本主義生産活動との相違点と言えるが、ソ連式社会主義生産活動にあっても、その比重は物質的欲求充足に置かれており、この点では相対的な差異にすぎなかった。
第二項で、国家が経済指導において主導的な役割を果たすとされるのも、特にアメリカ型の自由主義経済との相違点であるが、この点でも、高度成長期の日本のような国家の行政指導に裏打ちされた資本主義経済―指導された資本主義―との差異は相対的である。
【第十六条】
1 ソ連経済は、国の領土における社会的生産、分配および交換のすべての要素をふくむ国民経済の統一的な複合体である。
2 経済の指導は、経済的および社会的発展国家計画にもとづき、部門別および地域別の原則を考慮し、中央集権的管理と企業、企業統合体およびその他の組織の経営上の自主性及びイニシアチブとを結合させて行われる。そのさい経済計算制、利潤、原価ならびにその他の経済的な梃子および刺激が、積極的に利用される。
本条は、ソ連式社会主義経済の代名詞でもあった中央計画経済の根拠となる規定である。第一項にあるように、ソ連経済は生産、分配、交換に至る全経済行為を包括する一つの複合体と把握され、それが第二項に規定される経済計画に基づいてシステマティックに運営されていくはずのものであった。
ただ、第二項で、企業の自主性やイニシアチブ、利潤指標の活用がうたわれているように、ソ連末期には中央計画経済が機能不全に陥っており、対策として市場経済的な梃入れ、刺激策の導入が図られていた。しかし、同時期以降の中国ほどには市場経済要素の積極導入に踏み切れなかった。
【第十七条】
ソ連においては、市民およびその家族員の自らの労働だけにもとづく、手工業、農業および住民にたいする生活サービスの分野における個人的勤労活動ならびにその他の種類の活動が、法律により認められる。国家は個人的勤労活動を規制し、社会の利益のためにその利用を保障する。
社会主義憲法特有の回りくどい表現であるが、要するに手工業、農業、福祉などの分野で、計画経済の外にある自営業の自由を定める規定である。しかし、第二文で公益に基づく国家的規制の歯止めがかけられており、自営業は国家が認める範囲内に制限されていた。
従って、計画経済をかいくぐる闇市のような営業は当然違法であるが、消費財の不足から現実には社会主義財産横領と結びついた闇市が蔓延し、地下経済を形成していた。
【第十八条】
現在および将来の世代にために、ソ連においては、土地、地下資源、水資源、動植物界の保護、これらの科学的に根拠のある合理的な利用、大気および水の清浄さの維持、天然の富の再生産の保障ならびに人間環境の改善のために必要な措置がとられる。
環境保護に関する規定である。第十一条で天然資源は国家の専有物とされていたから、ソ連においては環境保護が徹底して然るべきであったが、実際のところ、人びとの物質的欲求を充足させるための経済発展に重点を置いた計画経済において環境要因は軽視されており、資源の浪費による公害・環境破壊は資本主義諸国を上回るほどに深刻なレベルに達していたのだった。