すべての公職選挙の選挙権年齢を18歳以上に引き下げる公職選挙法改正案が2日、衆議院の特別委員会で採決され、全会一致をもって可決された。共産党も基本的に賛成を表明しており、最終的に衆参両院で可決成立する公算は高い。
このように日本の選挙史上新たな画期となる改正案はほぼオール賛成の喝采で「粛々」と成立しそうな勢いであるが、疑義がないわけではない。憲法第15条第3項には、「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する。」と定められているからである。
日頃は憲法に忠実な共産党もこの点をあまり問題にせず、「創立以来18歳選挙権実現を掲げてきており、さらに幅広い民意が議会に反映されることは議会制民主主義の発展につながる」という政治的な理由からあっさり賛成しているのは、いささか拍子抜けである。
もっとも、筆者もこの規定について、「普通選挙原則を定める第三項は選挙権を成年者に限っているように読めるが、未成年者の選挙権を禁止するほどの限定性はなく、公務員の選定・罷免をおよそ国民固有の権利と宣言する(第一五条)第一項の趣旨からすれば、選挙権の範囲を憲法が指示する以上に拡大することは憲法違反とはならないと解すべきであろう。」と緩やかな理解を示したことがある(拙稿参照)。
しかし同時に、「ただし、10代にも選挙権を拡大するなら、民法上の成人年齢を例えば18歳まで引き下げたうえで対応するのが、憲法上の疑義を残さない賢策であろう。」とも付け加えた。このように指摘したのは、選挙における投票行動は独立した判断力を前提とするからである。
たしかに10代でも18、19歳のような成人に近い年齢層は「準成人」とみなして選挙権を付与することにも十分理由はあると考えるが、選挙における政治判断は各自の良心に照らして独立に行うことが基本であるところ、法的行為能力がなく、保護者とまだ一体的な未成年者に独立した政治判断が可能かどうか疑問なしとしない。
特に日本式選挙の悪弊である組織動員選挙は未成年者に対してはマイナス効果が大きく、例えば保護者の事実上の指示で保護者が支援する候補者に投票するといった投票行動が常態化する恐れも排除できない。
今般の法改正は、従来10代の選挙権を認める国が主流化しており、世界の主要国で10代に選挙権を認めないのは日本だけといった国際比較のみが理由とは考えにくい。結論的には賛成に回った共産党が、今般改正の発端は2007年に成立した改憲国民投票法が改憲のための投票年齢を18歳としたことに連動していると指摘し、改憲政党だけで協議・発案した「経緯、動機」に疑義を示したのは示唆的である。
もっと穿った見方をすれば、与党やその他の保守系諸政党は近年の若年層の全般的な保守化傾向を見て取り、若者取り込み的な発想から、ある種のユーゲント組織の形成にもつながると計算し、従来ほとんどまともに議論されたことのなかった未成年選挙権の解禁を諸手を挙げて進めようとしているのではないか。
法案提出の「経緯、動機」の不純性を疑いながら、棄権でなく、賛成するという共産党にしても、すでに存在する傘下青年組織を通じた党員拡大につながることをひそかに期待しているのかもしれない。このように、今般の未成年選挙権解禁法案には、全政党挙げての若者すりより的な「動機」の不純性を感じ取ってしまう筆者なのである。
ちなみに、海外事情を言うならば、10代の選挙権を認める国の大半は成人年齢自体を10代としており、未成年に選挙権を与えている国は少数である。もし「純正な動機」から、10代に選挙権を拡大するならば、先に指摘したとおり、成人年齢自体を18歳に引き下げ、法的にも保護者からの独立性を保障する民法改正法案も併せて提出・審議すべきであろう。