二 国防治安国家体制Ⅰ
防衛軍の確立
ファシズム体制に共通する政策面の特徴として、国防と治安に圧倒的な重心が置かれることが挙げられる。ファシズムにあっては恒常的な国家的危機が強調され、危機にある主権国家と国民社会を内外の敵から防御するということが、国是となるからである。
こうした「国防治安国家体制」は、議会制ファシズムの体制でも変わりはない。とりわけ、軍が軸となる。戦後日本が長く憲法9条と同居させてきた自衛隊は、ファシズム移行前に実現していた憲法改正を経て防衛軍に昇格しているが、2050年になると、防衛軍はいっそう再編強化され、確立されている。
防衛軍の基本構成は自衛隊時代から引き継いだ陸上防衛軍・海上防衛軍・航空防衛軍の三軍種を中核としながらも、有事には海上保安庁を指揮下に組み入れることができるなど、その権限は強化されるだろう。
ただし、議会制ファシズムは基本的に文民政権であるから、防衛軍が直接に政治権力を行使することこそないが、制服組代表者の防衛軍統合参謀長は閣僚に準じて国家安全保障会議にも正式メンバーとして参加し、安全保障政策上も大きな発言力を持つであろう。
戦後の文民統制の枠組みは維持されるものの、議会制ファシズムの体制では従来の官僚に代わって軍人からファシスト与党議員に転進する者が増加し、軍出身政治家の割合が高まることからも、文民統制の制度は形骸化していき、言わば軍民融合のような新システムが現われる。
ちなみに、適齢者一律の義務徴兵制は軍務の専門技術化に伴い導入されないが、高校生や大学生の適格者に対する指名任官制が導入される一方で、防衛大学校に付属の中高一貫校が設置され、幹部士官候補生の早期培養教育が徹底されるだろう。
さらに、一般的な公立学校においても、「防衛教育」が指導要領上規定され、中学生の防衛施設見学が義務付けられるほか、高校生・大学生向けには任意の短期体験入隊制度が公式に用意されるなど、防衛軍は教育面でも存在感を増している。