一 政治社会構造(続き)
指導層の特質
2050年の日本を支配する「議会制ファシズム」における国家指導層は、どのような顔ぶれになるのだろうか。年代的には、現時点でおおむね10代後半から30代半ばくらいまでの青年層から輩出されることは、計算上確定的である。
問題はかれらの価値観や行動様式であるが、それは現時点でのかれらの特質からおおよその推定が可能である。この世代の上限層は昭和末期の生まれであるが、物心ついたのは平成に入ってからであり、おおむね「平成初期世代」に当たる。
世代的な価値観、行動様式を見るうえでまず重要なのは、受けた教育の内容である。平成初期世代は資本主義爛熟期、グローバル資本主義の時代に教育を受けた最初の世代である。少子化が進行した世代で、同輩数が少ないにもかかわらず、「競争」イデオロギーが注入された世代でもある。
しかも、この世代の頃から、選別教育がいっそう進み、表向きは「平等教育」を標榜してきた公立校でも私立校にならった中高一貫エリート校のような早期選別制度の導入が公然化してきた。これら新興の公立エリート校が、2050年の国家指導層の有力な給源となる可能性は高い。そこで、こうした学校での教育内容は将来の指導層の価値観、行動様式に大きな影響を及ぼすであろう。
この点で注目されるのは、これら公立エリート校は公権力主導で政策的に設立されているため、全般にリベラルで自由な気風が強い伝統的な私立系エリート校とは異なり、一部では国家主義的傾向の教科書の採択が進められ、それに沿った社会科教育が行われ始めていることである。これを通じて涵養された政治的価値観は、議会制ファシズムを支える思想的な基盤となるだろう。
政策的に早期に選別され、「競争」を勝ち抜いた平成世代のエリート層は、昭和世代のエリート層に比べても弱者淘汰的な価値観及び行動原理を明確に体得しており、社会的弱者への共感はなく、むしろ反感が強い人間に成育されていくため、社会的平等やそれを目的とした社会政策には関心が薄い。
一方で、共通的な娯楽としてオンラインゲームで育った世代でもあるかれらは、ほとんどのゲームにおいて定番的なモチーフとなっている戦争に対してもリアルな認識は持っておらず、ゲーム感覚でとらえるため、軍事的なものへの親近感も強い。これは、防衛力の追求を事とする体制構築への動因となるだろう。
またこの世代は「電子世代」でもあり、コンピュータをはじめ電子機器の扱いには習熟しているため、電子的な監視システムに対しても、強い抵抗感は示さない。このことは、指導層として監視国家体制の構築に動く動因となり得る。