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比較:影の警察国家(連載第59回)

2022-04-17 | 〆比較:影の警察国家

Ⅴ 日本―折衷的集権型警察国家

1‐1‐0:国家=地方警察の複合構成

 日本の警察機構において物量的に最大のものが警察庁を頂点とする都道府県警察であるが、これは概観でも触れた通り、頭部が国、胴体は都道府県というスフィンクスのような奇な複合組織となっている。
 このような組織構造となった背景として、戦後改革がある。占領軍主導による戦後改革では戦前の警察国家の象徴だった内務省警保局を司令塔とする集権的な国家警察の解体が目指され、代わって、アメリカ的な自治体警察(市町警察)に転換されるとともに、自治体警察が設置されない地域を管轄する国家警察として国家地方警察が設置された。
 これは国と自治体の二元的な警察制度であったが、自治体には警察を維持する財政力が不足していた一方で、国家地方警察本部は公安警備分野では事実上自治体警察より優位にあったことなどから、占領終了後の1954年の警察法制定を機に再度全面改正され、現行のスフィンクス型警察制度に移行した経緯がある。
 その際、戦前の純粋な国家警察の復活ではなく、折衷的な国家=地方警察制度となったのは、新憲法上地方自治制度が導入され、都道府県が限定的ながら自治権を有することとなったのに合わせ、警察制度も限定的に都道府県に分散するという方向性が採用されたためであった。
 これによって、人事上も大多数の警察官は都道府県の地方公務員とされつつ、警視正以上の上級幹部警察官は地方警務官なる身分を持つ国家公務員とされ、まさに都道府県警察の首脳部は国が押さえる形となった。
 さらに複雑なことには、警察監督機関として警察庁を管理する国家公安委員会、各都道府県警察を管理する都道府県公安委員会が相似的に設置されているが、この制度は警察の民主的運営と中立的管理のためとして、アメリカの自治体警察に見られる警察管理委員会制度を模倣したものとされる。
 しかし、国家公安委員長は国務大臣をもって充てられるうえに、その他の公安委員も政権に近い有識者から内閣総理大臣によって政治任命されるため、警察の民主的運営と中立的管理という本来の趣旨は形骸化している。
 国家公安委員会による地方警務官の任命に同意権を持つ都道府県公安委員会も知事の任命制であるため、同様に形骸化するとともに、如上地方警務官の任命に際して不同意とする例はないため、その点でも形骸化している。

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比較:影の警察国家(連載第58回)

2022-04-17 | 〆比較:影の警察国家

Ⅴ 日本―折衷的集権型警察国家

1‐0:国の集中的警察機構

 日本の警察機構は、国に集中していることが特徴である。その点ではフランスの警察制度に近似しているが、フランスのような純粋の国家警察は存在せず、警察庁を統括実務機関とする分散的な都道府県警察制度がその中核にある。
 こうした警察庁‐都道府県警察の系統とは別途、警察庁の附属機関として、天皇及び皇后、皇太子その他の皇族の護衛、皇居及び御所の警衛に当たる特別警察として皇宮警察本部が設置され、一種の近衛警察となっている。
 さらに、法務省系の警察機関として、国内保安機関として政治警察機能を持つ法務省外局の公安調査庁、近年内部部局から独立して準警察機能を高める出入国在留管理庁があるほか、刑務所その他刑事拘禁施設内での警察権を持つ刑務官を統括する法務省矯正局も限定的に警察機関の性格を持っている。
  また、防衛省系の警察機関として、防衛機密の保持を任務とする自衛隊情報保全隊は防諜組織ながら市民活動の監視にも及ぶ限りで機能的な公安警察機能を持つ。なお、自衛隊内の警察活動に専従する陸海空各自衛隊の警務隊は軍隊の憲兵隊に相応するが、自衛隊が軍隊ではないとされる限りにおいて国の警察機関の一つに数えることもできる。
 さらに、国土交通省系の警察機関として海上保安庁がある。海上保安庁は海の警察機関であるとともに、接続水域や排他的経済水域でも活動することから、陸の国境線を持たない日本では、海上保安庁が非軍事的な国境警備隊の役割を担っている。
 また、厚生労働省系の特別警察機関として、麻薬取締部がある。これは名称通り、麻薬捜査を主任務とする捜査機関であり、中央組織を持たず、厚生労働省の地方支分部局である地方厚生局または地方厚生支局に設置される形で、分散的に配置されている。
  同じく厚生労働省系の特別警察機関として、労働基準監督署は労働関係法令違反の捜査を行う労働警察の役割を持っている。この場合、労働基準監督官が司法警察職員として活動する。
 以上の他にも、農林水産省系の警察機関として、水産庁には違法操業などの漁業取締りに当たる漁業監督官が所属し、林野庁には違法伐採等の森林関係犯罪の取締りに当たる森林官を擁する限りで、両庁は警察機関としての機能を有する。
 また経済産業省系の警察機関として、鉱山保安監督に当たる鉱務監督官を擁する限りで、同省地方支分部局である鉱山保安監督部も警察機関として機能する。
 如上の国レベルの警察諸機関は体系的というより、日本の行政の特徴である縦割り構造に組み込まれる形で所管官庁ごとに組織されているが、基本的に警察庁、法務省、防衛省、国土交通省の各系統が主要なものである。

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